内緒話 番外編

姉弟+部下

 ひき肉って難易度が高い。 内勤の日の昼休み。自分のデスクで、スープジャーに入れて持ってきた担々スープを食べながら後悔した。左下の奥歯に穴が空いていて、そこを避けて噛んでいるつもりなのにお肉がするっと入り込みそうになる。しばらくひき肉料理は…

お買い物の番外編

 アクセサリーショップを出ると、ビルと道路からの照り返しが眩しかった。メインストリートは涼しげな格好をした人々が大勢行き交っている。 こういう賑やかな場所に来ることは少ない。楽しいが、少し疲れた。軽く息をつくと、隣にいた早瀬が俺の顔を見やっ…

お買い物

「早瀬は、いつもどこで服を買っているんだ?」 昼休憩で久しぶりに二人だけになると、柊崎が訊いてきた。弁当をつつきながら、いかにもさりげなくという口調。「好きな店が何軒かあるから、そこ行くことが多いかな。ネットでも買うよ」「そうか」「どうした…

姉弟

 早瀬が職場に携帯を忘れて帰ったので届けることにした。 彼は最近引越したばかりで、前の家は何度か行ったことがあったが新居を訪ねるのは初めてだ。住所は教えてもらっていたので、最寄り駅から地図アプリを頼りに歩いていく。 この辺りか、と道端で足を…

美容師さん

 日曜日のヘアサロンは朝から全ての席が埋まっている。 自分が今日最初に担当するのは、早瀬夕椰ゆうやさん。家でも丁寧にヘアケアをして、いろんな髪色や髪型を楽しんでいるお客様だ。 「カラーの色味、変えてもいい?」「どんなの?」「ミルクティー系と…

ポッキーの日

「柊崎、今日なんの日か知ってる?」仕事の後、俺の自宅に飲みに来た早瀬。ほろ酔いの彼は食後にどこから出したのか、ポッキーの箱をちらつかせながら尋ねた。「しない」「なにも言ってないんだけど」「お前のことだからポッキーゲームしようとか言い出すんだ…

バレンタイン

「乾かすので沁みると思います」 左下6番のインレーセットをするため、頬と歯茎の間にロールワッテを置きながらそう言うと、患者である都築つづきさんがうぅ、と小さく声を漏らした。「結構沁みるんですよね……」 気持ちは分かる。インレーが入るのはただ…

高3の夏

「あっつ……」 校門を一歩出ると早瀬がうんざりしたように言った。 夏休み中の週末、俺たちは学校で行われた模試から帰るところだ。頭上からは真夏の日差し、足元のアスファルトからもじりじりと熱が這い上がってくる。 シャツの一番上のボタンを外した早…

高3の春

 友達に見られるかもしれないとずっと避けていた、高校から一番近い歯科医院。歯が痛くて痛くてもう選り好みする余裕なんかなかった俺は、授業が終わると部活を休んでそこに駆け込んだ。  運良く空きがあって診察室に通してもらうと、すぐに歯医者さんが来…

普段のお仕事

「早瀬先生、問診票です」「ありがと」「レントゲンも先に撮ったので、確認お願いします」「うん、分かった」 午後6時過ぎ。院内は仕事帰りの患者が増え始め忙しない空気が漂っていた。衛生士の須田からバインダーに挟んだ問診票を差し出された早瀬はそれを…

後輩の検診

 ふう、今日の診療も終わった〜。 この後は柊崎と飲みに行く予定だ。楽しみだな。 そう思いながらうーんと大きく伸びをしていると、後ろから「早瀬先生」と声がした。 振り向くと、この歯科医院で働き始めて1年目の後輩、高野くんが不安げな表情で俺を見…

歯磨き

 診療時間後の歯科医院。俺は同僚の早瀬の検診をした後、磨き残しの確認のため染め出しをしたところだった。 全体的によく磨けているが、上顎は少し歯並びが悪いせいもあり、歯列が乱れている箇所がところどころ赤く染まっていた。「上が少し磨き残しが目立…