暖房を効かせた待合室で、俺たちは並んで座っていた。
あれからすぐに到着した暖も一緒だ。
「心配かけてごめん」
暖と俺の間に座った一晴は深々と頭を下げた。
「まったくだよ」
優しい口調で言いながら暖が一晴の背中を軽く叩く。
「晃平が泣いてたよ」
「さっきまでは泣いてないよ」
暖に言い返しながらも、また浮かんできた涙を指で拭う。一晴がゆっくりと顔を上げ、俺を見た。
謝らないといけないのは俺もだ。深呼吸してから一晴の目を見た。
「俺もごめんね」
「……なにが」
その声音は少し硬いように感じた。
「昔のこと、聞いたんだよね」
一晴の視線が下がる。
「……やっぱり、晃平もいたんだね、あのとき」
その平坦な声から一晴の感情は読み取れなかった。ただ、良く思っていないことは確かだ。
俺は頷いた。
「怖い思いさせてごめん。黙ってたのも、ごめん。一晴にどう思われるか考えたら……言い出せなかった」
「初対面で言われてたら、逃げてたかも」
「そうだよね」
「でも」
一晴と再び目が合った。
「俺は今の晃平に診てもらって……今の晃平が優しくしてくれたのも、さっき、俺のこと心配してくれてたのも、本当だと思うから。俺はこれからも晃平に診てもらいたい」
願ってもない言葉に、返事は遅れた。
「……いいの?」
「だから、ここに来た。……ちょっと気持ちの整理がつくのに時間がかかって、遅くなっちゃった、けど。今日も予定通りお願いしてもいいかな」
「当たり前だよ」
一晴の手を握ると、まだ冷たかった。混乱や迷い、恐怖、いろいろあっただろうに変わらず俺から治療を受けようと決意するのは簡単なことではなかったと思う。
「ありがとう。晃平に頼んでよかったって思ってもらえるように頑張るね」
「別に、いつも通りでいいよ」
そう言いつつも、一晴の表情には緊張が滲み出ていた。昔の記憶やあのとき抱いた気持ちをなかったことにはできないだろう。昔のことを知ったうえで俺と相対して、気を抜けばぶり返しそうな恐怖心を必死で抑え込んでいる状態なのかもしれない。
暖の言っていた「後戻り」という言葉を思い出す。今日の治療が、徐々に自信をつけていた前回までと同じようにできない可能性はある。
でもたとえそうなっても、一晴が今の俺を見てくれたように俺も昔のことに囚われず今の一晴と向き合いたい。
「じゃあ行こっか」
「うん」
一晴と手を握ったまま立ち上がる。いってらっしゃい、と暖が軽く手を上げた。