4 - 6/14

 仕事の合間にメッセージも送ってみたけれど一晴から返信はなかった。
 ただ、暖がこっそりバイト先を見に行ってみるときちんと出勤していたらしい。一晴に気を遣って暖は姿を見ただけで帰ったそうだけれど、無事だとわかってひとまずは安心した。
 長いようで短かった診療時間が終わり、一晴と約束していた時刻の間際、もう一度電話をかけてみる。でも結果は変わらず、留守番電話が応答した所で切ってしまった。
 こうなってはもう待つことしかできない。5分、10分、20分……時間が過ぎても待ち続けていた。ロッカーからカーディガンを出してきて羽織り、医院の周囲を見て回ることもした。でも一晴は来ない。暖からの連絡によると、家にも帰ってきていないらしい。
 1時間が過ぎたころ、さすがに焦りを感じ始めた。バイトが長引いているとは考えにくい。
「暖! どう?……帰ってきてない、よね?」
 痺れを切らして暖に電話をかけると、暖もいくらか不安になり始めているようだった。
「ああ。……もういちど店に行ってみようと思う。一晴が来るかもしれないから、晃平はそこにいて」
「わかった」
 じっとしていることはできず、医院の正面入口の外を確認したり、裏口を見に行ったり、それを何回か繰り返す。そのうちに別の不安も募り始めた。どこかで事故に遭ったなんてことはないだろうか。どうか店にいてほしい。暖からの連絡をひたすら待つ。
 何度目になるか、裏口のドアノブに手をかけた時、もう片方の手の中で着信音が鳴り始めた。すぐに通話ボタンをタップする。
「暖」
「だめだ。1時間半くらい前には帰ったらしい」
 胸の内に膨らんでいた不安に飲み込まれそうになる。手が震えそうになってドアノブにかけていた手でもスマホをつかんだ。どうしよう、この後打てる手は、と考えなければいけないことは頭の中で渦巻くだけで、全く思考は進まない。
「……へい……晃平?」
 気がつくと、暖が何度も俺を呼んでいた。
「ん、ごめん」
「落ち着け。……そうだな、こうしよう。僕は今から、一晴を探しながらそっちに行くよ。どこかで寄り道して歯医者に行こうとしてる可能性もあるし」
「……もし、見つからなかったら」
「その時は一晴に連絡を入れてから家に帰ろう。家にも帰ってこないようなら、一晴の親御さんとか警察にも連絡したほうがいい」
「わかった」
「大丈夫だよ、晃平。いいほうに考えれば、1時間半前まではちゃんとバイト先にいたんだ」
「うん。……うん、そうだよね」
 暖は本当に頼りになる。俺一人だったらきっと取り乱して何もできなかった。やっと手の震えが止まって、頭が働き始める。暖が来たらすぐ帰れるように、片付けをしておこう。
 診療室に戻りかけ、もう一度だけとドアノブを握って押した。暗い外から冷たい風が吹き付けてくる。医院の横を車が1台ゆっくりと走り去っていった。
 辺りが静まり返ったその時。ぐずっと洟をすするような音が聞こえた気がした。慌てて外に出て周囲を見回す。すると裏口から少し離れた所、医院の壁を背に、膝を抱えてしゃがみこんでいる人影があった。
「一晴!!」
 駆け寄り、思わず抱きしめた。長時間外にいたのだろう、体が冷えている。
「大丈夫? 怪我してたり、具合悪かったりしない?」
「ん」
「よかった……事故とかに遭ったんじゃないかって……」
 一晴の背中を確かめるように何度も撫でる。
「心配、した……」
 気持ちと一緒に涙腺まで緩んでしまったみたいだ。それ以上何も言えなくなってさらに強く抱き寄せる。
「ちょ、晃平苦しい」
 腕の中から声がして、我に返った。
「ご、ごめん」
 体を離し、手を差し出す。
「寒いから、ひとまず中に入らない?」
「……うん」
 一晴が俺の手を掴んだ。