その夜、一晴はとうとう部屋から出てこなかった。でも翌日は一晴が朝からバイトなので顔を合わせることはできるはずだ。話をして、バイトのあと約束している治療をどうするか訊かなければと思っていた。
ところが翌朝、食事を作った後いくら待っても一晴はリビングに現れなかった。そろそろバイトに遅れる時間ではと部屋に行きドアをノックしても、返事もない。ダメもとでドアノブを握ると、驚いたことにすっとドアは開いた。
「一晴……?」
すぐにベッドに目を向ける。綺麗に畳まれた毛布とスウェット。部屋はしんとしている。机の横に置いてあるはずの、いつも持ち歩いているトートバッグもなかった。
慌てて1階に降り、玄関を見に行く。思った通り靴もなかった。
1階と2階をばたばたと行き来する音で起こしてしまったのか、暖が目をこすりながら玄関にやってくる。
「どうした?」
「一晴、いつの間にか出かけたみたい……」
眠気が一瞬で吹き飛んだように暖が目を見開いた。
「え? 晃平が起きる前に?」
「たぶん……」
「早い時間のシフトを入れたのかな」
「聞いてないよそんなこと。俺に会わないように出て行ったんじゃ……」
そうとしか考えられない。治療の約束をしたときにバイトの予定は聞いていた。早朝からだとは言っていなかった。
このまま、今日の治療にも来なかったら。家に帰ってこなかったら。悪い想像が膨らんでいく。
俺の肩に暖が手を置いた。
「とりあえず連絡してみよう。晃平もそろそろ出ないと仕事に遅れるんじゃないか?」
「う……うん。そうだね」
「荷物はあるんだろ?」
「あった」
「なら絶対ここには帰ってくるよ」
結局、一晴にかけた電話は繋がらなかったけれど、暖の言葉を支えになんとか支度をして仕事に出かけた。