4 - 2/14

 仕事から帰ると、血相を変えた暖が玄関まで走ってきた。
「どしたの」
「一晴が、変だ」
「え!?」
「入って。僕には何があったのか……」
 慌てて靴を脱ぎ、暖の後をついてリビングに入る。一晴はいない。
 暖はダイニングテーブルに置いてあったビニール袋と椅子にかけてあった紙袋を手にした。
「僕が仕事から帰ったら、一晴がこれを持って玄関に座り込んでて」
 ビニール袋にはシチューのルーと、冷めたコロッケが3つ。そして紙袋を覗き込み、息が止まりそうになった。
「……まさか」
「このジャケットが、どうかしたのか?」
「……一晴、俺と昔会ってたことに気づいたのかもしれない」
 声は震えていた。こうなるのが怖かったから、返さなくていいって言ったのに。
「どうして」
「後で説明する。一晴は?」
「部屋だけど、呼んでも返事がない。鍵も閉めてる」
「俺も行ってみる」
 袋を置き、2階へと急ぐ。部屋のドアをノックして呼びかけた。
「一晴?」
 返事はない。ドアに耳を当ててみてもかすかな音ひとつしない。ドアノブを握ってみるも、暖の言った通り鍵がかかっているみたいだ。
 普段、一晴が鍵をかけることはない。再びドアをノックした。
「一晴! 話したい。……開けてくれないかな」
 しかし、相変わらず物音はしなかった。
「もしかして、寝てるか」
 いくらか冷静さを取り戻したように暖が言う。
「寝てるだけならいいんだけど」
「少し待ってみようか。そのうち降りてくるかもしれない」
「……そうかな」
 諦めきれず、しばらくそこに留まる。しかしいくら待ってもドアが開くことも声が聞こえることもなかった。
「一晴、リビングにいるね」
 ドアの向こうに声をかけ、暖と一緒にそこを離れた。

「とりあえず風呂に入って着替えたらどうだ」
 1階に戻ると、暖がそう勧めてくれた。
「その間に弁当でも買ってくる。一晴が買ってくれたコロッケもあるし、今日は出来合いのもので済ませよう」
「……あんまり食欲ないな」
 暖が眉根を寄せた。
「初めて聞いた気がする」
「俺が食欲ないって?」
「ああ」
「そんなことないでしょ」
「いや、初めてだと思う……」
 そんなつもりはなかったのに、何気なく言った「食欲ない」は暖をひどく心配させてしまったみたいだ。
「こんなときこそ食べたほうがいい。とにかく、行ってくる」
 俺の背中を軽く叩いて、暖は出かけていった。
 暖に言われた通り風呂と着替え、と思っていたのに、玄関のドアが閉まる音がすると、ソファに座りこんでしまった。
 ジャケットの入った紙袋を遠目に見る。
 南野が、一晴に昔の話をしてしまったのだ。そうとしか考えられなかった。