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 ライトを消して鏡を置く。
「晃平、ありがとう。できそうな気がしてきた」
 晃平が体を起こして俺のほうを向いた。まだ心配そうな顔だ。
「俺は、一晴に俺と同じようにしてほしいわけじゃないからね」
「どういうこと」
「俺と一晴じゃ、苦手の度合いも苦手なことも違う。だから怖いときは怖いって言っていいし、待ってほしいときも言ってね」
「……こんなにしてもらって、待ってって言うの申し訳ないよ」
「全然申し訳なくないよ!」
 晃平は前のめりになって俺の両手を握った。
「俺は一晴が元気になってくれるなら何だってしたい。ゆっくり治療することなんて迷惑でもなんでもないよ」
「なんで、そんなふうに言ってくれるの」
「なんで?……うーん……」
 晃平はしばらく視線を上に向けて唸っていた。晃平にとっては今まで理由を考えたことがないくらい当然のことだったのかなと思うと、その様子だけで嬉しかった。繋がれた手の温かさを感じる。晃平が俺に視線を戻した。
「まずは、一晴のことが大事だから。あと……俺ね、一晴とか暖が俺の作った料理を美味しいって食べてくれたり、冗談言って笑ったり、そういうのが幸せだから。またみんなで楽しく過ごせたら嬉しいなって……。結構自分のためでもある」
 結局自分のことでごめんねと苦笑した晃平に、俺は首を横に振った。
「俺も、同じ気持ち」
 俺の歯が痛くなってから、晃平も暖も煩わせてしまっていることには気づいていた。家で三人揃っていても以前のような賑やかさがない。
「頑張る。治療の続き、やってほしい」
 晃平の表情が、今度はあまり心配そうではなかった。
 今考えると、晃平の歯を見たすぐ後の俺は無理をしているように見えたのかもしれない。
「わかった。ゆっくりやろうね」
 晃平が両手をぎゅっと握ってから、俺の膝の上でゆっくりと離す。手が離れていっても温かさは残っていた。