続きはまた今度 - 6/7

 思ったより長い間削られてようやく機械が止まった。でも、祥の指は口の中に入ったまま。
「神経の治療していくからね」
 祥が手に持っている器具を見て、涙が滲んだ。黄色の持ち手がついた針みたいな器具。あれだ。昔すごく痛かったやつ。
「やっ……」
「大きくあーん。そのままね」
 口を閉じそうになったけど、祥の指で頰の内側を押し広げられる。ぎゅっと目を閉じるのと同時に、右下に鋭い痛みが走った。
「あっ! あっ……あ……」
「清乃、お口閉じないよ」
「や、ぁ……あっ、あぁぁぁ」
 歯の奥までグリグリと器具を入れられて、抜かれる。
 うっすら目を開けると、涙でぼやけた視界にさっきと違う色の器具を持った祥の手が映った。
「清乃?」
「……っ、やだ……っ」
 とうとう涙がぽろぽろ零れ始めた。
 祥の指が口から出ていく。上からじっと目を合わせられた。
「清乃、深い虫歯なんだから、これしないと治らないよ」
「できないの」
「できるよ」
「むり……いたい……」
 首を振って、ぐすぐすと泣き続ける私を祥はじっと見下ろしていた。
 わがままを言っている自覚はある。祥を困らせているのもわかってる。でもあの痛みをあと何回も我慢できる気はしなかった。
「……そんなに痛い?」
 祥が訊いた声は昨日の悲しそうな声にどこか似ていた。申し訳なさを感じつつも、頷く。
「……わかった。ならもう一回麻酔しよう。ちょっと待ってて」
 椅子を倒したまま、ライトもつけっぱなしで祥は一度診療室を離れたけれど、すぐに戻ってきた。注射の準備をしているのか、横で音がする。不安になって祥の顔を見ると、祥の目元が少し緩んだ。
「これ、さっきとは違う麻酔でよく効くからね」
「……ほんとに?」
「うん。ただ、ちょっと痛いんだけど」
「え……?」
 止まりかけていた涙がまたぶり返す。ちょっと痛い、ってどれくらい? さっきの治療より痛いなんてことないよね? 頭の中が疑問と不安でいっぱいになっているうちに祥の手が口元に添えられた。
「でも麻酔したほうが絶対楽だから、これだけ頑張ろうね」
「ん……」
「えらいね。じゃあ、あーん」
 祥の言葉になんだか圧を感じてつい口を開けてしまうと、ゴムの塊みたいなものを左側の奥に押し込まれた。
「んぅ!?」
「お口閉じると危ないからそれ噛んでて」
「やぁっ……」
「ちょっと我慢だよ」
 頭を抱え込むようにして顔を固定される。
 やだ、なにされるの……? 
 息をするのも忘れて固まっていると、祥の手が近づいてきて、右下に今までに感じたことのない痛みが走った。
「ひああぁぁぁ!」
 ぶわっと涙が溢れ出す。
「もう一回」とやけに冷静な祥の声が聞こえる。
 激痛のあとは嘘みたいに痛みが消えて、歯の中をかき回される嫌な感覚だけぼんやりと感じていた。