翌朝、私は歯の痛みで目が覚めた。脈打つように痛むのは紛れもなく昨日治療した右下の歯。痛みと恐怖でさあっと血の気が引いていく。
布団から出て、薬箱を漁る。
ふうふう息をしながらキッチンまで行って、なんとか水で錠剤を流し込んだ。そのまま、そこに膝を抱えてしゃがみ込む。体じゅうにじっとりと汗が吹き出してTシャツが張り付く。フローリングに触れた足の裏だけやけに冷たい。
痛い。どうしよう。どうしよう……頭が回らない。涙が滲み出した。9時くらいに祥が迎えに来る。そのときまでこんな状態だったら、ここの治療をされてしまう。薬、効いて……。
時計の秒針の音が遠くでぼんやりと聞こえる。肩で息をしながらじっと耐えるうちに少しだけ痛みは軽くなったかもしれない。でも、いくら待っても完全には消えてくれなかった。
いつの間にかキッチンには眩しい朝陽が差し込んでいて、祥が来るまでにもうそんなに時間がないことに気づく。なんとか部屋に戻り着替えを済ませて、とりあえずお財布とスマホだけ小さなバッグに突っ込んだところで着信音が鳴った。
「おはよう、清乃。着いたよ」
「お、おはよう」
声はもう半泣きで、きっと祥も察したと思う。
「……出てこれる?」
「ん……」
部屋を出て下に降り、マンションの前で待っていた祥の車に乗り込む。
じっと見られている気配はするけれど、顔を上げる勇気はなかった。俯いたままシートベルトを締める。
「痛くなった?」
やっと投げかけられた短い問いかけに頷くと、「わかった」とそれだけ言って祥は車を発進させた。