治療の後は当然旅行どころではなくなってしまって、私たちは予定を一日早めて帰ることにした。
帰りの車に漂う重苦しい雰囲気。疲れただろうから寝ていいよと言われたけれど、祥に会話を拒まれているようにも感じて、目を閉じてみたけど不安で寝つけなかった。
「……ごめんね」
祥に背を向けるようにして、高速で流れていく窓の外を眺めながらやっとの思いで謝る。
返事はない。
「せっかくの旅行だったのに私のせいで台無しにしちゃって」
二人で前から計画を立てて、いつも落ち着いている祥もちょっとはしゃいでるみたいだったのに。
しばらくの間があった後に、祥が静かに言った。
「それは気にしてないよ。旅行はまた行けばいい」
また、と言ってもらえたことにひどく安心した。
でも、「それは」って……。
「だけど歯のことは言ってほしかった。気づかなかった俺もいけないけど……どうして隠したの」
「……ごめんなさい」
軽いため息が聞こえた。
「ごめんなさいじゃわからない。どうしてって訊いてるんだよ」
歯医者さんに行きたくなかったから。治療が怖かったから。そんな子どもじみた理由を言えなくて黙っていると祥の口調がまた少し強くなった。
「俺には言いにくかった?」
「……祥のせいじゃない」
「なら、歯医者が嫌だった?」
答えないでいると、祥はそれを肯定と取ったのか、質問を変える。
「清乃、他にも虫歯があったよね。それはどうするの」
「……なおす」
「そうだよね。今日治療したところも、痛みが出なければ詰めものを入れないと」
今日治療したところ、という言葉に心臓がキュッと縮んだ気がした。実は鈍い痛みがずっとあって、車が揺れると顔をしかめそうになってしまう。
でも痛いと正直に言ったら、帰ってそのまま神経の治療なんてことになりかねない。あの治療だけはしたくない。
「清乃? 今は痛くない?」
「うん。……痛くない」
また隠して、嘘をついたことに心が痛まなかったわけじゃない。でも大丈夫、我慢していればそのうち痛みも引くはず、と自分を納得させる。
「それならよかった。もし痛くなったらすぐ言って」
祥が信じてくれたのにほっとしながら、わかった、と返事をした。
「じゃあ、次はいつ歯医者さん行こうか」
なるべく先がいいけれどそんな言い分を許してもらえるはずもなく、私は明日、祥に診てもらうことになった。