「少し休憩しますね」
音が止まって、器具が口の外に出ていく。椅子は倒されたままだった。
「大丈夫でした?」
手元で何か作業をしながら鹿野先輩が尋ねる。
「はい、なんとか」
「じゃあこのままもう少し続けますね」
シュイィィィ……と再び音が鳴り始める。
「開けてください」
もう始まるんだ。重たい気分で口を開けると、指で頬を引っ張られた。
「森崎さん、一番奥だからもっと大きく」
今一瞬、昔の練習中に厳しかった鹿野先輩が顔を出したような。
うう、嫌だ、と思いつつも言われたとおりにすると、ジィッと機械の先が歯に押し付けられた。
「ん」
なんか、沁みる……?
さっきより強い振動が歯の奥に響く。
痛いときは教えてって言われたけど、教えるってどうやって? そんなことを考えているうちに沁みる感じはどんどん強くなっていった。
「はっ……ん……」
先輩の前で変な声を出したくなくて我慢しようとすると、だんだん口は閉じていって顔も左に向いていく。
「こっち向いててくださいね」
一瞬削るのを止めて、鹿野先輩がそっと私の顎を掴んで元の位置に戻す。そして内頬が指で押し広げられた。
「大きく開けてないといつまでも終わりませんよ」
そう言って鹿野先輩はまた私の歯を削り始めた。
変わってない。私は半分諦めながら目を閉じた。部活中、ちょっと手を抜いて走っていたら真顔で「もう1周」と言っていたあの鹿野先輩だ。
機械が触れる場所からは鋭い痛みが伝わってくる。もしかしたら神経に近いのかもしれない。
いつまでも終わらないのはもちろん嫌だけど、いつまで続くんだろう……。
眉を寄せながら、なんとか声だけは出さないように我慢した。