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 それからは言われた通り5秒だけ削られて、さっきよりもさらに痛くてどうにかなりそうだったけれど5秒と思うとなんとか耐えられた。
「……削るの終わりね。乾燥させてからお薬塗るよ」
 やっと終わったとほっとしていたのに春田先生はまた別の機械に持ち替える。
「ごめん、ちょっと沁みるよ」
「あっ!」
 シューッと風がかけられる間、口を閉じそうになる度に春田先生の指で唇を引っ張られた。そのあとの薬を塗るのもまた沁みて、結局5秒なんかじゃなくかなり長い時間痛みに耐えないといけなかった。もう春田先生の言う時間は信じない。
「よし、仮詰めまで終わったよ。椅子起こすね」
 診察台が起き上がってうがいをする。まだ麻酔のせいで痺れているとはいえ、左下の歯は少し軽くなった気がした。
「頑張ったね、小宮山くん」
 そう言いながら春田先生がエプロンを外してくれると、やっと体から力が抜けていった。
「さっき塗ったお薬にも炎症を抑える効果があるし、あとで痛み止めも渡すからね。痛いのはだいぶましになると思う」
「……ありがとう」
 どういたしまして、と笑ったあとに春田先生は真面目な顔つきになった。
「でも今ね、まだ途中だからさ。明日は歯の根っこのほうの治療をするよ」
「……うん」
「頑張ろうね」
 春田先生のこの感じ、なんとなくあった嫌な予感はたぶん当たっているんだと思う。でも来ると行ったのを今さら撤回はできないし、来なかったら余計に面倒なことになりそうな気もする。
「俺は予約忘れないって言ってるだろ」
 不安を振り払うように威勢のいいことを言ってみせた。