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 早く、このまま終われ。そう思っているのになかなか嫌な音がやまない。そうしているうちに痛みが治まっていたはずの歯が沁み始めた。
「……ぅ……ん」
 エプロンがかかった胸元を握りしめて、声が漏れそうになるのを堪える。さっきの歯磨きのときみたいな恥ずかしい姿は晒したくない。今思い返してもあれはやばかった。それにしても春田先生、いつも気が弱そうにしてるくせに平然と痛いことできるのが信じられない。絶対気づいてるだろ、俺が痛がってるの……
「んっ……んん……」
 機械の先がぐっと押し付けられ、だんだんと深くもぐり込んでくる。
「んぅ……っ」
「あ、顔動かしたら危ないよ」
「はっ、あ、あぁ、」
「痛いね……もう少しだよー」
 必死に声を抑えようとしてももう無理だった。ゴロゴロと削られていく歯は激しく痛むし、顔は春田先生に強い力で押さえられて動かせない。
「小宮山くん、ちょっと止める?」
 なにも反応できずにいると、煩かった音が止まって、口の中いっぱいに入っていた機械が出ていく。自由になった口からは、んうぅ、と泣いてるみたいな声が漏れた。
「ごめん、無理させすぎた」
 そんな声とともに目元を綿で拭われる。気づけば視界は滲んでいて、春田先生の顔もまともに見えない。
「一気にいったほうが早く痛みを取ってあげられるかなって思ったんだけど。ごめんね」
 先生が言うほど無理なんてしてないと言い返したいのに、口を開けば言葉にならない声が零れそうで虚勢を張ることすらできない。どうしようもなくて春田先生から顔を背けると、ライトが消されて診察台が起こされた。