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 そろそろ終われと思いながらもう何十分も過ぎたような感覚だ。もちろんそんなに経っているはずはないのだが。
 振動に合わせてまたジンジンと痛みが出始めていた。うっすら目を開けてみると本条は眉間に皺を寄せながら手を動かしている。不安に駆られてまた目を閉じ、深く息をしてみた。少しでも痛みが和らいでほしい。だがバーの先は痛みを感じる場所にますます近づいてくるようだった。
「っ、あ……」
 ミラーを持つ本条の手に少し力が入る。
「痛いな……」
 低く響いていた音が止まり、ゆっくり目を開けると齲蝕検知液を塗られるところだった。洗浄して、ミラーで確認する。その間も本条はずっと険しい顔をしていた。
「もう少し我慢できるか」
 無理、と言えるはずもなく頷くと、ミラーとエキスカが口の中に入ってきた。
「あっ!」
 痛い。
「はぁ……あ、んん」
 何度かカリカリと削られたあと、もう一度検知液で確認される。さすがにもういいよな、と本条を見上げたが、彼の表情は暗い。
「……内田、まだ少し残ってるんだ」
 その言葉と本条の様子から状況はよく伝わってきた。これ以上削ると露髄しかねない。そういうことだろう。
「このまま続けるか? 場合によっては抜髄ということもあるが」
 ひ、と思わず息を呑んだ。抜髄……? 嘘だろ?
「それか、一旦ここで止めて、また治療してみてもいい。……そのほうがいいかもな」
 また治療する、か。修復象牙質ができるのを待って残りの感染歯質を取り除くなら、最低でも3ヶ月はかかる。治療は長丁場になるが、どちらがいいかなんて考えるまでもなかった。
「そっちで頼んでもいいか」
「わかった。……やってみて、結局どうなるかはわからないが」
「わかってる」
 もちろん神経を残したいという気持ちは大きい。だが、結果はどうなろうと俺の治療を別のやつに任せようとしていた本条がその提案をしてくれたこと自体が今は嬉しかった。
「どうなってもお前が診てくれるんだろ?」
「……ああ」
 本条がしっかりと頷く。
 今までの出来事があったせいだろうか。なんとなくだが、本条は俺の治療が終わったらまたいなくなるような、言いようのない不安があった。でも、これで確実に数ヶ月は引き留められる。これは嬉しい誤算だ。いや、虫歯が深かったのは全く喜んでいいことではないが。
「じゃあ、これで6番は終わりだ。もう一回開けて」
 ということは今日の治療ももうすぐ終わりか。そう思うと体から少し力が抜ける。しかし本条はさっきまでと同じ難しい顔で左上を見ていた。
 そういえば隣接面齲蝕だったわけで、そしてさっき6番「は」と言ったか。嫌な予感がしていると、思った通り本条はタービンに手を伸ばした。
「このまま5番を削っていくからな。これはすぐ終わると思う」
 もう少しだからな、と本条が俺を力づけるように言う。
 デンタルの画像を思い返しても本当にもう少しだろう。痛みもあまりなさそうだ。しかし頭ではわかっていても、6番が予想以上に深く、散々痛みを感じたあとなのではっきり言って怖い。
 怯えながら耐えた時間はまた非常に長く感じた。