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 う、と呻きたくなるのを堪えて左頬をぐっと押さえ、離す。今の、どっちだ。甘いから沁みたのか、温かいから沁みたのか。たぶん甘いからだろう。歯が沁み始めてから朝食のときはいつもブラックコーヒーだったのに、久しぶりにカフェオレにしたのが間違いだった。
 糖分はちょっとした景気づけのつもりだった。ずっと考えているのはこのあと本条にどう話を切り出すかということだ。今日で本条の右上の歯の治療は終わる。今日こそ謝らないといけない。
 いつだったかの治療後に見た本条の顔が忘れられなかった。「迷惑かけて悪かった」「面倒な治療に付き合わせて」といった言葉も。彼を傷つけたのだと思う。他の歯科医に診てもらったほうがいいという俺の言葉の意味を誤解したのだろう。あの言葉には身勝手な理由しかなかったというのに。
 でも俺だって、と言い訳したくなる気持ちもある。これまで何度か謝ろうとした。正確には謝らずに自然と元通りの俺たちに戻れたらと思って準備や片付けを手伝おうとしたり治療を申し出てみたりしたのに本条にことごとく断られた。
 正直いい気持ちはせず、もう放っておこうと最近は意図的に距離を置いてもいたが、俺の治療は断るくせに別の歯医者に行き出す気配もないので、俺が治療してやらないとまたこいつは放置するんじゃないかと自惚れた考えも捨てきれなかった。
 今度はあまり押しつけがましくならないようにもう一度治療を申し出てみようと思う。そして、本条とのことが落ち着いたら早いところ俺も誰かに自分の治療をしてもらえば万事解決だろう。誰に、というのはいまだに決まっていないがまた考えればいい。とりあえず今日のことだ。
 と、思っていたのだが。そんな考えは本条の左上の歯に見覚えのないCRを見つけた瞬間吹き飛んでしまった。