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 モニターに右下のデンタルが映し出される。
「丹野くんも見てください」
 自分の目で確認したい気持ちと目を背けたい気持ちが半々くらいだった。それでも今泉先生に促されたので右下6番を注視する。
「深い……」
「なるべく歯髄は温存したいと思いますが、抜髄が必要になる可能性はあると思います」
「そう、ですよね」
 抜髄処置を受けた経験はない。自分がそこまで悪化させることはないだろうと思っていた頃さえあった。失活歯になってしまったらと想像すると、後悔と不安が募る。俯きかけると、モニターの画像がパントモに切り替わった。
「気になるところは少しありますが、大きな齲蝕はその右下くらいかと思います。丹野くんと穂積先生のケアの賜物ですね」
 自然に穂積の名前を出されたおかげで、俺の想いを今泉先生が尊重してくれていると感じられた。
「ありがとうございます。そう言ってもらえて、なんか安心しました」
「思った通りを言っただけです。……麻酔が効いたか確認しましょうか」
 ゆっくり頷くと、力抜いてくださいね、と肩を軽く叩かれた。 
 診療台が倒れていく。ライトが口元を照らし、探針だろうか、器具を取る音が聞こえた。
「開けてください。少し引っかきますよ?」
 右下6番に探針の先が触れると条件反射のように顔を顰めてしまったが、痛くはない。
「痛みますか?」
「いえ」
「痛いときはすぐに教えてくださいね。削っていきます」
 バキューム、続けてタービンが口の中に入ってきて大きな音が鳴り始める。バーの先が歯に触れ、ゆっくりと動かされていった。
「丹野くん、大丈夫ですか?」
「ん」
「よかった。もう少し力抜けますか?」
 意識してみると肩が上がっている。大きく深呼吸して肩の力を抜くと、今泉先生の指がくいっと頬粘膜を押さえた。
「上手ですよ」
 子供を褒めるような言い方がむず痒い。でもその優しい声音に安心したのもまた事実だった。
 しばらく削った後、今泉先生がコントラに持ち替える。そこからがまた長かった。
 だんだんと顎が疲れてきた頃、治療が中断された。
「痛みはありませんか?」
 俺の目を見て今泉先生が尋ねる。
「大丈夫です」
「もう少し続けるので無理はしないでくださいね」
「はい」
 休憩できたおかげで大丈夫そうだ。今泉先生がバーの交換を終え、バキュームを持ったので口を開ける。
「少し深い所触りますよ」
 バーの先が押し付けられ、顎まで振動が響く。そのうちに時折痛みを感じるようになってきた。
 我慢できないほどではないが、痛みが続くと不安になる。今泉先生に言ってもいいものか迷っているとバキュームとコントラが口の外に出ていった。
「検知液塗りますね」
 齲蝕検知液を塗って洗い流すと、今度はエキスカが口元に近づいてくる。
「失礼します」
 口が閉じかけていたようで今泉先生の指で軽く口角を引っばられる。先程痛みを感じていた所をコリコリと掻かれ、小さく体が跳ねた。
「んっ……」
「あと1回だけね」
 耳元で今泉先生の声がする。体をこわばらせながらもなんとかその1回を耐えた。