「依田、いちごオレでいい?」
自販機の前で芳野が俺を振り返る。
何にしよう。いつもならいちごオレにするけど、今日は……。やめとけ、とでも言うようにズキンと左下の歯が痛んだ。
「依田?」
芳野が心配そうに俺を見ている。
「……ああ、それでいい」
ん、と頷いて芳野が自販機のボタンを押す。この前は俺が芳野に飲み物をおごったから、今日は彼が買ってくれるらしい。
「はい」
「……ありがとう」
ひんやりとした紙パックを受け取り、二人並んで教室に戻る。芳野とは部活のチームメイトで、部の中でも一番親しかった。引退してからも放課後は今日のように一緒に自習をすることが多い。
「この後は数学にするか?」
俺たちしかいない教室で、紙パックにストローをさしながら尋ねる。たしか芳野が教えてほしい問題があるとか言っていた。
「ああ……ってやばい、そういや数学のノート出してねえ」
「今日期限だろ」
「だよな。悪い、ちょっと職員室行ってくる」
芳野は引き出しからノートを引っ張り出すと慌ただしく教室を出て行ってしまった。
どの問題だっけ、教えてほしいって言われてたの……問題集をめくりながらストローをくわえる。
「……っ」
冷たくて甘い液体が左下にいきなり沁みた。
大丈夫、こんなのいつものことだし、そのうち治まるはず……。そう思っていたのに、痛みはむしろ強くなっていく。どうしよう、ここまで痛くなったこと、今までなかったのに。鼓動に合わせて痛み続ける左頬を俺は手で押さえた。
「ふーっ……ぅ……」
ゆっくり深呼吸してみても何も変わらない。じわじわと目に涙が溜まって、鼻の奥がぐすぐすと音を立て始める。
やっぱりこんなの飲むんじゃなかった。というかこんなのばっかり飲んでるからだ……こんなに痛くなってるの……。
頼むから芳野が帰ってくるまでには治まってくれ。こんなところ見られたくない。ぽたりと零れてしまった涙を手の甲で拭った。