「付き合わね?」
職場の駐車場で、じゃあ、と同僚の萱島と別れて帰ろうとした矢先、後ろからそう聞こえた。
聞き間違いかと思って振り返る。もう何時間も前に日は落ちて、辺りは暗い。それでも街灯に照らされて萱島の表情は確認できた。とても、真剣な顔をしていた。
本気なんだとわかった瞬間、急に体が火照っていく。心臓の音がうるさい。いつかこういう日が来るんじゃないか、むしろ来たらいいのに、と思っていたのに、いざとなるとすぐには返事ができなかった。
萱島に初めて会ったのは約1年前。今の歯科医院で働き始めた僕の案内役を偶然彼が務めてくれたのが始まりだった。ひとつ年上なのに「タメでいいよ」と気さくに接してくれた彼はとても近づきやすくて、何かと頼っているうちに距離が縮まっていった。仕事で毎日会うにも関わらず休みの日もよく一緒に過ごすようになって、たまに恋愛の話もするようになったころ、彼の好意になんとなく気づいたけれど、それがうぬぼれじゃない自信もなかった。
でも、うぬぼれじゃなかったんだ。答えはもう決まってる。返事をしようと口を開きかけた。
「なーんてな」
「え?」
「明日付き合ってほしいとこがあるんだよ」
萱島はいたずらっぽく笑っていた。
「……は?」
ちょっと待って。なに。冗談ってこと?
真に受けた僕の気持ちはどうなるの?
「歯医者さんなんだけど」
「は? はいしゃさん?」
告白が嘘だったこともまだ受け入れられてないのに、あまりにも想定外の展開すぎて処理が追いつかない。
「そ。実はちょっと前から歯が痛くて」
いやぁまだ持つと思ってたんだけどな、思ったより早く痛み出しちった。萱島はそう言ってあっけらかんと笑った。
「だから、明日歯医者に……おわっ!?」
僕は萱島につかつかと歩み寄り、腕を摑んだ。
「話は中で聞こうか」