ハレーション - 8/14

 匡一は仕事から帰ると着替えもせずベッドに横になっていた。朝からひどかった歯の痛みは増しており、もう何もできない。帰宅するのもやっとだった。
 真っ暗な部屋に呻き声と息遣いが響く。
 どうしよう。鎮痛剤も全く効かない。
 夜間救急に行くべきかずっと考えているが、皓大に診てもらえばよかったという後悔ばかりして行動を起こせずにいた。
 どうにか痛みが軽くならないか、無駄だと思いつつもまた一つ深呼吸した時。ベッド脇に置いた鞄の中から着信音が流れ始めた。
 手を伸ばして携帯を取り出し、表示を確認する。
「皓大……」
 今日も結局、一日中避け続けてしまった。電話に出るのがためらわれ、携帯を枕元に置く。程なくして着信音は止まった。
 数分後、また電話がかかってきた。出て、謝って、治療を頼んでもいいのだろうか。しかし迷っているうちに着信音は途切れてしまった。
 その後しばらく待ってももう電話がかかってくることはなかった。
「んぅぅ……っ」
 弱々しい声を漏らしながら匡一は体を起こした。
 限界だった。このまま朝を待てるとは思えない。でも、何も言わずに夜間救急に行けば皓大との関係は修復できない気がした。
 1回だけ折り返してみて、皓大が電話に出なかったら夜間救急に行こう。やっと決心がつき、着信履歴から電話をかける。
 1コール、2コール……5コール……繋がってほしいのかほしくないのか、匡一は自分でもわからなかった。それでも鳴らし続ける。ついにコール音が途切れた。
「皓大、」
「留守番電話に接続します。発信音の後に……」
 無機質な声が流れ、匡一は携帯をゆっくり耳から離した。
 だめだったか。
 電話を切った途端、寂寥感に襲われた。皓大に電話に出てほしかったのだと今さら気づく。
 でも、皓大との繋がりもこれまでということなのだろう。全て自分のせいだ。諦めにも似た気持ちで携帯を鞄に入れ、歯の痛みに顔を歪めながら玄関へ向かった。