姫と騎士 - 1/5

「今日さぁ、朝から抜髄、抜髄、抜歯、抜髄だよ? もう疲れた……」
 昼休みのスタッフルームで、僕の前に座る雪野が指を折りながらぼやく。パーマをかけた茶色い髪は不機嫌そうに揺れ、伏せた目の下で睫毛が白い肌に影を作った。 
 そのビジュアルや言動から彼はスタッフや患者さんの一部に姫と呼ばれている。
 今も、はぁ〜〜とこれ見よがしにため息をつきながら宅配弁当の隅にいたミニトマトを器用に箸で刺し、ぽいと口に運ぶ様子はどこぞのワガママ姫に見えなくもない。姫にしては大変行儀がよろしくないけれども。
 不貞腐れた顔でミニトマトを咀嚼していたかと思うと雪野は左手に箸を持ったまま、右手を横、隣に座っている豊間とよまの前に出した。
「揉んで」
「ん? 腕?」
「うん」
 雪野と同じく食事中だった豊間だが、仕方ないなというように苦笑すると箸を置き、雪野の腕を両手で揉み始めた。短い黒髪に日焼けした肌、雪野の1.2、3倍はあろうかという体格、その面倒見の良さからスタッフ内で豊間は姫の従者や騎士などと呼ばれることもある。
「痛くない?」
「気持ちい。肩もやって」
「ったく、わかったよ」
 いやいや、なんでそんな簡単に「わかったよ」って言えるんだお前は。当然のように席を立ち、雪野の後ろに立って肩を揉み始めた豊間を僕は頬杖をつきながら眺めた。なお、その間も雪野は食事を続けている。
「よーやるわ」
 何が?というようにつぶらな瞳で問いかけてきた豊間。騎士というより忠犬だな、と失礼な考えが頭に浮かんだ。