それから1ヶ月経っても匡一は歯科を受診せずにいた。自発痛が出始め、鎮痛剤を飲む毎日。
ミラーを使って見る勇気がなくそっと舌を這わせてみると、大きな穴が空いているのが分かった。こうなっては虫歯だと認めざるを得ない。
皓大に知られる前に治療しなければ、と思うのに、誰に診てもらうのかと考えると思い浮かぶのは皓大の顔だけだった。
「そろそろ検知液使います」
「はい」
皓大が言ったのを合図に、匡一は齲蝕検知液をマイクロブラシにつけて準備しておく。
朝から左上6番に鎮痛剤を飲んでも消えない違和感があり、診療中も気になっていたがひどく痛み出すことはなく、これが今日最後の診療だった。
この治療も終盤だ。先の段取りを考えつつバキュームを持つ。皓大が検知液を塗り、スリーウェイシリンジを取ったのに合わせてバキュームを口元に近づける。その時、違和感のあった歯がズキンと強く痛んだ。
「……っ」
一瞬手が止まる。すぐに何事もなかったかのようにアシストに戻ったが、その後、治療に支障が出るほどではないものの皓大とわずかにタイミングが合わなくなっていった。
初めて一緒に診療にあたったときから阿吽の呼吸で、今までずれを感じたことはなかった。皓大も同じで、「自分の腕が増えたみたい」と言っていた。そんな皓大が異変に気づかないわけがない。
「桑山さん」
印象採得を終えると、皓大が匡一に声をかけた。
診療中は愛称で呼ばないのはいつものことだ。それなのにどこか冷たく聞こえてしまい、匡一の背筋が伸びた。
「……はい」
「あとは俺がします」
皓大は患者に向き直ると、仮蓋していきますねー、と声をかけた。
いつもなら仮封は衛生士に任される。診療を外されたのだ、と感じた。