姫と騎士 立場逆転ver. - 5/6

 こいつらときたら、治療が始まるまではうるさいが始まったらおとなしいところまで仲が良いようだ。
 雪野は目を閉じたまま、身じろぎ一つせずに口を開けていた。バキュームもやりやすくて助かる。
 ただ、思ったより治療には時間がかかっていた。
「ごめん雪野、もう少し削るよ」
 齲蝕検知液を使ったのでそろそろ終わりが見えてきたかと思っていたが、豊間は5倍速に手を伸ばす。
「痛いときは手挙げてね」
 削り始めると、ぴくりと雪野の肩が上がった。一瞬だけ視線を横に向けると、お腹の上の手にも力が入っている。
「大丈夫か、雪野」
 尋ねたが反応はない。ただ、先ほどまでと違って眉を寄せていた。
「雪野、まだ頑張れる?」
 豊間も尋ねる。ただ、その手は患部を少しずつ削り続けていた。
 止めてやるとかはしないんだな。意外に思ったが、雪野の場合、頼まれもしないのに止めたほうが面倒なことになりそうな気もする。
 5倍速を置き、豊間がもう一度検知液を使った。
「……もう少しだね。ちょっとカリカリするよ」
 ミラーとエキスカを取って豊間が雪野に向き直ると、雪野がぱちりと目を開けた。
「豊間……」
 甘えるような声。目も潤んでいる。
「ん、どうしたの。休憩する?」
 あんな声を出したわりに雪野は首を横に振った。
「痛い」
 拗ねたように言うが、再度の「休憩していいんだよ」という言葉はやはり拒否していた。
「じゃあ続けるよ。これで終わりだから頑張ろうね」
「ん……」
「あーん」
 小さく開かれた口がミラーで押し広げられ、エキスカが患歯に触れる。豊間が手を動かすたびに雪野は痛みに耐えるように息を漏らした。
「よし、きれいになったよ。一旦うがいしてね」
 起こされていくユニットの上で、すん、と雪野が洟をすするのが聞こえた。