豊間は一旦雪野にうがいをさせると、再びユニットを倒した。
「まだ効いてないよ」
雪野は抗議の声を上げつつも、倒れていく背もたれに身体を預けていた。
「うん。効くまでの間、検診させて?」
「え!?」
起き上がろうとした雪野の両肩を豊間が押さえる。抵抗もむなしく雪野はユニットの上に仰向けに寝かされた。
雪野も腕力はバカ強いが、やはり全身の力は豊間にはかなわないらしい。それか豊間が普段本気を出していないか。
ライトをつけ、ミラーを手に豊間が言う。
「雪野、あーん」
「やだって」
「お願い。ちょっと気になるところがあるから」
「う、うそ……」
右上以外に自覚症状のある歯はなかったのだろう、雪野はショックを受けたようにおとなしくなった。
「ね、診せてね」
豊間の指が雪野の唇に触れると、相変わらず開口量は小さいもののすっと口が開いた。
「左下なんだけど……ちょっと引っかくね」
ライトの位置を調整しながら見ると、左下6番はインレーで治療済のようだ。そこへ豊間が探針を向ける。雪野の全身に力が入った。
「痛くない?」
探針でインレーと歯質の境目を触りながら豊間が尋ねる。
ん、と犬か猫が鳴くような声が返ってきた。
「段差が気になったけど、この感じだと大丈夫かな。全体も診ていくね」
観念したのか疲れてきたのか、雪野はもう抵抗しない。
「大平さん記録お願いしていいですか」
「おう」
これはさすがに睨まれたが、それだけだった。
「左下7番は斜線、6番インレー、5番CR。4番から……反対側7番まで斜線」
所々エアーを吹きかけながら豊間が検診を進めていく。
「右上に行って、7番がC2、6番斜線、5番も斜線。4番から4番も斜線。5番と6番はインレー、7番斜線。ん、いいよ。楽にしてね」
ミラーが口の外に出され、ふうっと息を吐きながら雪野が口を閉じた。
「きれいだね。右上だけ治して維持していこうね」
「……うん」
心なしか雪野の口元が緩む。幻滅される、というのが杞憂で終わり安心したのかもしれない。
「麻酔効いてきた?」
すかさず繰り出された次の質問で、一気に表情が固くなったが。
「効いてきた」
「じゃあ削っていくね」
豊間がタービンを手に取った。