姫と騎士 - 3/5

「あまりにも痛かったので自分で確認だけしようとしてたら、一緒に帰ろうって雪野が来て……」
 雪野を待つ間、豊間はこうなった経緯を説明してくれた。ここで歯を見ていたところを雪野に発見されてしまったらしい。
「そういえば、弁当も結局ほぼ食ってなかったもんな。肩揉まされて時間なくなったのかと思ってたけど、痛くて食えなかったのか」
 豊間はうなだれるようにして頷いた。
「まあ見つかって良かったんじゃないか? 抜髄するような虫歯、確認だけしたところで意味ないだろ」
「……そうですけど……まじで心の準備できてないです……治療むり……」
 消え入りそうな声で言いながら豊間はでかい体を丸めてまた顔を覆ってしまった。
「雪野もなんか怖いし……」
「それは僕も同感」
「だいぶ落ち着いてはきましたけど……」
「あれで?」
「最初俺の歯見た時なんか、『なにこれ?』って目ぇバッキバキでしたよ」
 豊間が顔を上げ、再現しようとする。
「……こわそー」
 弱っている豊間の大きな丸い目で真似されても全く再現になっていないので想像するしかないが、あの整った顔に睨まれたらダメージは甚大な気がする。
「しっかし、雪野が患者さんに怒ったなんて聞いたことなかったけど……もしかして普段相当猫被ってんのか?」
「いや、演技してるとは思えませんけど」
「だよな。もしかして豊間、嫌われてる?」
「えっ……」
 ひどくショックを受けた様子で豊間が言葉を失った。さっきまで顔を覆っていた手でぎゅっと自分の両腕を抱く。
「そうなの……?」
「あ、あー……悪い、冗談だ」
 こいつは本当に雪野のことが好きなんだな。改めて認識した。相思相愛かというと怪しくなってきたわけだが。
 でも、あの超絶マイペースな雪野が、どうでもいい相手の治療を診療時間後に強いてするだろうか。
「良いほうに考えれば心配してるんじゃないか?」
「だったらいいけど……」
 いまだショックから立ち直れない様子で、豊間は自信なげに呟く。
「こんな虫歯隠したなんて、って嫌われたかも……」
「わかんないだろ」
 豊間を宥めていると、
「落ち着いた?」
 と後ろから声がした。戻ってきた雪野がスツールに腰掛ける。思わず「お前がな」とツッコミを入れてしまった。
「頭冷えましたか、雪野先生」
「俺はずっと冷静だけど?」
「嘘つけ」
 僕の言葉は華麗にスルーして雪野は豊間の顔を覗き込んだ。
「できるよね、豊間?」
「無理よりの無理だけど……優しくしてください」
「それは豊間次第」
 はじめるよ、と雪野は診療台を倒した。