「じゃあ、あとは倉木さんにクリーニングしてもらってな」
椅子が起こされて、夏兄がマスクと手袋を外す。
急に気が抜けて、おれは椅子の背もたれに寄りかかった。
「安心したな」
夏兄がふっと笑った。
「検診なんだから、もうちょい気楽に来いよ」
「だって、虫歯が見つかるかもしれないって思ったら……歯医者やっぱり好きじゃない」
「気持ちは分かるけど。すっかり嫌われちまったな」
夏兄が少し寂しそうに見えて、なんだか申し訳ない気持ちになる。
「でも、歯医者もそんなに悪い奴じゃねえんだぞ? 理玖が痛い思いしないで、いつでも美味い飯が食べられるように手伝えたらって、思ってんだよ」
「なんだよ急に……」
からかうでもなく、優しい声で真面目なことを言われて調子が狂う。それにこういうこと言われてなお検診に来たくないとか、恥ずかしくて言えないし。
わざとやってるのか素なのか、やっぱり夏兄には勝てる気がしない。
「ちゃんと検診に来てくれたら、前みたいなことには絶対させないから」
「分かった! 分かったから」
おれが返事をすると、よし、と夏兄が安心したように笑って、立ち上がる。
「じゃ、あとは倉木さんよろしくお願いします」
「はい」
夏兄はおれの頭をぽんと一撫でして、診察室から出て行った。