「芳野先生ね、ご機嫌だったよ。水元くんがやっと来てくれるって」
呼びに来てくれた衛生士さん、倉木さんがおれを診察室に案内しながら話す。
倉木さんは初めてこの歯医者に来たときに中に入れてくれた人で、その後おれの治療に付いてくれたことも多くて、顔見知りになっていた。
「ずっと気にしてたもん。ちゃんと検診来てくれるかなーって」
「そうですか……」
「なんか、緊張してる?」
「し、してないです」
そんなことを話しているうちにあっという間に診察室に着く。それぞれの診察室は半個室に区切られていて、案内されたスペースを覗くとそこにはもう夏兄がいた。
「よ、理玖」
「……うす」
「なんだよいきなり暗いな。来たくなかったですって顔に書いてあるぞ」
「来たかったわけないじゃん。しかも一馬に勝手に予約されて」
「お前がなかなか予約しないからだろ。ほら、座れよ」
しぶしぶ診察台に座ると、倉木さんがエプロンをつけてくれた。
夏兄がおれの顔を覗き込む。
「今日は検診だから、なんも怖いことねえからな」
「わ、分かってるから! てか怖いとか思ってないし」
「そうか? ずいぶん緊張してそうだけど」
「してない」
「あっそ。じゃあ早速だけど始めるか」
倉木さんが横でちょっと笑ってる気がしたけど、気にしないことにした。
椅子が倒されて、夏兄がおれに尋ねる。
「前治したところはどうだ? 違和感があったり、痛かったりとかないか」
「うん、大丈夫」
「他に気になるところは?」
一馬に言われた、左下。
言おうか一瞬迷って、おれは首を横に振った。
「大丈夫。気になるとこはない」
夏兄が何か言いたげにおれの目を見た気がしたけど、結局「そっか」とだけ言って顎にかけていたマスクを引き上げた。