なんでこうなってんだ?
目の前には一馬の顔。真剣な目でおれの口の中を見ている。
一馬に「見てあげようか」なんて言われてびっくりしている間に距離を詰められて、気づけばこんな格好になっていた。
「もー、やえおよ」
「やめろって? もうちょっと待って」
上を先に見てから、一馬の視線は下の歯に向いていた。
右下の大きな銀歯を見られてる。
恥ずかしくて顔が赤くなっていくのがわかった。
「あと左下……あれ」
「なんらよ」
一馬が左下の奥歯をじっと見ていた。
なんだろう。まさか、虫歯、とか?
そういえば夏兄から歯みがきが足りないって言われたの、そのあたりだったような。
「なんか、この歯と歯の間、黒くない?」
「え……」
「影かな。わかんないけど」
「やめ」
「もうちょっとだけ」
なおもそこを見ようとする一馬の手を思わず払いのけた。
「やめろって!」
虫歯……なのか?
たくさん治したばっかりなのに、また?
「ごめん」
「……黒かった?」
「うーん、よくわかんない。でも早く診てもらったほうがいいんじゃない」
虫歯があるかもしれないとわかったら、ますます検診に行きたくなくなったんだけど。
「せっかくだし今予約しちゃえば?」
「そんな気分じゃない……」
「じゃあいつ予約すんの」
「明日」
「それ絶対予約しないパターンじゃん」
おれもそう思う。
最初に夏兄から連絡来たときに予約しとけばよかったのかな。前も早く歯医者行けばよかったって後悔したのに、同じことしてるな。
落ち込んでいるおれを後目に、一馬は携帯をいじり始めた。
何やってんだろ、急に。
不思議に思ってそれを見ていると、突然尋ねられる。
「明日、たしか部活休みだったよね」
「え? うん、そうだけど」
「オッケー」
「なんで?」
そこはかとなく嫌な予感がして一馬に尋ね返す。
しばらくしてから、やっと一馬は答えた。
「明日で予約取っといたからね」
「は!? 予約って、歯医者の?」
「うん」
「ど、どうやって」
たしか電話か、ネット予約するにしても診察券の番号とか入力しないといけなかったはずじゃ。
「夏己くんに直接連絡した。明日の17時、空いてるって」
「ええ!?」
おれの大声が一馬の部屋にこだました。