問診をしていくうちに一花は少し緊張を解いてくれたように感じたが、診察台を倒すとまた最初のような強ばった表情に戻ってしまった。
「一花ちゃん、何かするときは言うから。痛そうかなーってときも、痛くないときもね」
ライトを点けながら一花に笑いかけると彼女が小さく頷く。
「じゃあお口開けてください」
そろそろと開かれた口にミラーを差し入れ、まずはさっと口内に視線を巡らせる。
(やっぱりいまどきの子って歯綺麗だよね……)
ぱっと見て分かる治療痕は左上7番の小さなインレーのみ。歯並びも悪くないし、歯磨きも完璧とは言えないものの丁寧にされているようだ。
(まあ昔も俺たちくらいか、あんなに治療してたの)
高校時代の自分を思い出しそうになる思考を追い払い、早瀬はミラーを右上に向けた。
「学校の検診と同じ感じでいくね? 衛生士さんに記録してもらうから」
一花が頷いたのを確認し、須田に目くばせをしてから早瀬は口内に視線を落とした。
「右上から、7番斜線、6番がCR、5番……ちょっと風さんかけるね、沁みないよ」
大きな目で不安げに見上げてきた一花に声をかけ、5番にエアーをかける。白濁は見られたものの、穴が空いていたり着色があったりという様子は認められない。
「虫歯になりかけって言われたのここかな?」
「はひ」
「うん、初期の虫歯かな。まだ治療は必要ないから、大丈夫」
ほっと力が抜けた一花を見て思わず、分かるよ、と心の中で頷いてしまう。
厳密には大丈夫じゃないけど、やっぱり治療しなくていいのは大きいもんね……。
「4番も斜線、3番から……うーんと……6番まで斜線、7番がインレー。下いっていいかな? うがいしてもいいよ」
「大丈夫です」
「じゃあ左下行くよ。あ、ここ親知らずが出てきてるんだ? 痛みはない?」
親知らずの周囲の歯茎が少し腫れている。ミラーを口の外に出して尋ねると、「少し」と一花は答えた。
「でも、そこまでじゃないです。たまにヒリヒリするくらい」
「なら、よかった。なるべく歯磨きは丁寧にしてあげてね。痛みがひどいときは我慢しないで相談して?」
「はい」
「じゃあ続きね。左下の7番がCR、6番もCR、5番から……反対側の6番まで斜線。で、痛いのはここかな。一番奥」
咬合面に小さな穴が空き、溝も茶色くなっている7番を見ながら早瀬は探針に手を伸ばした。
「ごめんね、ちょっと痛いかも」
少し申し訳ないような気持ちになりながら探針で溝の部分を探る。
「……ぁ」
「ん、もうやめるからね。……7番C2で。お疲れ様、椅子起こすよ」
痛みを感じたせいだろうか、検診が終わっても肩に力が入っている一花に早瀬は「うがいどうぞ」と声をかけた。