「——それから、飯は本当に気をつけろよ。左ではなるべく噛まないこと」
エプロンを取ってもらった後、薫からたっぷり注意事項を聞かされた。
「俺もなるべく、取れたり欠けたりしないように気をつけたつもり。前よりもな」
仮封が欠けたのは私の不注意のせいだけど、もしかしたら薫も前回の処置の仕方を気にしていたのかもしれない。どことなく神妙な表情を見てそんな気がした。
「はい、今日は終わり。明日は根治と左上のC2な」
「え、左上も?」
根治だけだと思っていたのに、さらに嫌な予告が来てしまった。
「あ、歯磨きチェックもするんだったな」
「……それも明日するの?」
「ああ。これはお前が言ったんだからな? 楽しみにしてるよ」
「忘れればよかったのに……」
子どもの頃のことといい、薫はいろいろなことをよく覚えている。余計なことは早く忘れてほしい。
「柾のことは忘れられないな」
カルテを書きながら薫がさりげなくそんな一言を放った。
「……それ、どういう」
「鳥頭だから代わりに覚えておかないとってこと」
「はあ!?」
「ほら、今日の約束も忘れてるんじゃないだろうな?」
「え……うわ、もうこんな時間!」
携帯で時計を確認して、慌ててユニットを降りる。
「薫、ごめん、片付け——」
「いいよ、やっとく。楽しんでこいよ」
猫を追い払うような仕草をしながらも温かい言葉をかけてくれた薫にお礼を言い、診察室を出た。