翌朝。準備があるかと思って8時少し前に到着する。裏口に回ってみると鍵が開いていた。
院内に入り、診察室を覗く。
「お、ちゃんと来たか」
黒いスクラブを来た薫がカルテを手に座っていた。
「来るに決まってるでしょ」
「そうか? 土壇場で怖くなったーとか言いかねないと思ってたよ」
「馬鹿にしないで」
そんなことを言いながらも診察台に近づくのは少し怖かった。前回の抜髄以来の処置だ。嫌でもあのときのことを思い出す。
「馬鹿にしないでって言うわりには泣きそうな顔だな」
「な、泣きそうじゃないから」
怖いけどこれ以上薫に恥ずかしいところを見せたくない。
どうにか診察台に座ると、すぐにエプロンがつけられた。
「じゃあ倒すよ」
ユニットの背もたれが倒れ、眩しいライトが口元に合わせられた。
この前と同じで、歯医者さんの薫は淡々と事を進めていく。開けて、とミラーが唇に触れた。
「ほら、大きく」
小さく開けた隙間からミラーが入り込んできて頰を広げる。薫が何かを取る音がした。
「残りの仮封外すよ」
慣れ親しんだ音が鳴り始めて超音波スケーラーが口の中に入ってきた。
「ん……」
なんだか響くし沁みる気もする。少し声が出てしまったけど薫は気にする様子もなく手を動かしていた。
しばらくすると仮封が取れたようでバキュームで吸われ、詰められていた綿栓も抜かれる。
「ちょっと沁みると思うけど、動くなよ」
薫の右手にはシリンジが握られている。左からは唇を押さえるようにしてバキュームが入ってきた。
洗浄するんだ。沁みそう……。
「あ、……あはぁ……」
「柾、顔動かすなって。あーん」
「あぁぁ……」
「まだ残髄がありそうだな。明日麻酔して綺麗にしような」
さらっと嫌な予告をされてしまった。
しかも麻酔なしで処置をするのはだいぶ酷だと思うけど、薫は私のことを労る様子もない。この後予定があるから仕方ないといえばそうだけど、やっぱり少し寂しい。
「ん、んぅ」
洗浄が終わって綿を詰められている途中、泣けてきてしまった。
「本当よく泣くよな。……もう少しだから」
呆れたように言いながら薫が仮封材を押し付ける。
そして、私の涙がまだ引かないうちにユニットが起こされた。