仮封は大きく欠けてしまっていた。
口を濯ぐと沁みる。
薫も私もお酒を飲んでいるので今から治療は無理だ。
じゃあ明日? でもせっかくの日曜日だし私は友達と会う約束もある。薫だって予定があるかもしれない。
月曜日まで待てばいいか。仮封が取れたのを放置するとよくないことは分かっているけど、あと二日ならなんとかなる気がする。決めた、予定通り月曜日に診てもらおう。
あまり長時間席を外すと薫に怪しまれそうだ。少し落ち着いたので戻ることにした。
「あ、佳凛帰ってきた! 二次会行くよね?」
なるべく平静を装って席に戻ると、待ち構えていたように先輩から尋ねられた。
私がいない間に二次会に行く流れができていて、衛生士の同僚たちはみんな行くらしい。もう席を立っているメンバーもいる。
いつもなら私も喜んで行くけど、この歯ではきっと楽しめない。断りたい。でも「行くよね?」と言われたのに断ったら盛り下がっちゃうかな……。
「うん、行——」
「体調悪いんじゃないの」
行く、と言おうとしたのを隣から遮られた。
薫、私の様子がおかしいのに気づいてるんだ……。
「そうなの佳凛?」
先輩が尋ねる。他のみんなも口々に心配してくれた。申し訳ないと思いつつも頷く。
「実は、ちょっと……気持ち悪くなっちゃって」
「大丈夫? ごめんね。気づかなくて」
「ううん、飲みすぎかも。こちらこそすみません」
「全然謝ることないって。今日はもう帰りな。……そうだ、周藤先生も帰るんですよね? 佳凛を送ってってもらえませんか」
「え!?」
あの失言のせいで薫に合わせる顔がない。
それに、仮封が欠けたことがバレたらどんな反応をされるか。もしかしたらもうバレているかもしれない。
「分かりました」
「よろしくお願いします」
薫と先輩だけで話が進んでいく。この状況で二人きりになるのは無理。慌てて止めようとした。
「一人で帰れます。いいって薫」
「いいも何もどうせ方向同じだろ」
薫は他のメンバーと挨拶をして、すたすたと店の出入口のほうへ歩いていく。
ほら佳凛、と先輩に背中を押される。他の同僚たちにも急かされ、私は仕方なく薫を追いかけた。