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 翌日。土曜日が休診になるのは隔週のため、今日は夜まで診療を行ったあと内田から治療を受けていた。彼の勤務先は土日も毎週診療を行っており、勤務はシフト制らしい。今日は出勤日だったそうで、仕事帰りにここまで足を運んでくれた。
「――じゃあ、次回クラウンを入れて終わりだな。次も土曜日でいいか」
「すまないが、次の土曜は用事があって」
 前勤務先の予約を取ったんだ、とそこで言うつもりだった。しかし俺がそう言う間もなく内田は「じゃあ日曜だな」と話を進める。
「日曜は? 用事とかねえか」
「あ、ああ……特にない」
「俺も来週は休みだから都合がいいわ。10時くらいでいいか」
「そうだな。あの、」
 予約の話をしようと口を開きかけたが、目の前で内田がすっと立ち上がる。
「じゃあな。お疲れ」
「あ……内田」
 診療室を出て行く後ろ姿に呼びかけても返事はなく、もちろん立ち止まることもない。「気をつけて帰ってくれ」と言えたのは彼の姿が通路へと完全に消えてからだった。
 内田は最近、少しやつれたような気がする。俺が余計な仕事を増やして疲れているせいもあると思うが、体調が悪そうなときもあった。ずっと気になってはいたものの、毎回治療が終わると今日のようにすぐ帰ってしまうので、なにも尋ねることができていない。
 最初の頃は二人で話しながら片付けをしていた。でも、内田に手伝ってもらうのを俺が断った。他の虫歯の治療と同じように何度も。
 診療室の出入口をぼんやりと見ていた視線を横のテーブルに移す。片付けはしなくなっても、内田が帰ったあとのテーブルは使ったものが綺麗にまとめられている。道具の並べ方も大体いつも同じで、それを見るとどういうわけか無性に寂しくなった。たとえば一緒に家に住んでいた人が突然いなくなって、使っていたものがいつもの配置のまま家に置かれているのを見たらこういう気持ちになるのかもしれない。そんな発想に至ったところで、自分がひどく滑稽に思えてきた。
(……なにを感傷に浸っているんだ)
 のろのろと診療台を降り、片付けを始める。俺が片付けは自分ですると言っているから内田は家に帰った。それだけのことだし、内田とはまた、少なくとも来週はまた会える。こんなことを考えている俺がおかしい。
 ただ、来週が終わったら……そんな仮定が頭をよぎって、俺はそれ以上考えるのをやめた。来週こそ他の歯医者の予約を取った話をして、内田もきっとそれを聞いてよかったと言ってくれて、丸く収まるはずなのだから。