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 治療が再開されてしばらくすると、覚えのある嫌な感じがし始めた。これから痛くなってくるんだ、というあの感じ。
「辛くなったらお口閉じないで左手ね」
 このあたりで手を挙げればいいのかもしれないけど、まだ我慢しないと、と思っているうちに挙げるタイミングを逃してしまう。今日もそうだった。
「ん……」
 ジィッ、ジィッ、とバーの先が何度か同じ場所に押し付けられ、だんだんと嫌な感じが強くなる。やがて振動と一緒にはっきりとした痛みが伝わってきた。
「っ、ん」
 声が出そうになったのをなんとか堪えると、ハンドピースが口の外に出て行って、バキュームで唾液を吸われる。
 終わった……? それとも麻酔足してくれるとか……? 少し期待しながら兄ちゃんが手を伸ばした先を見ると、エキスカが握られていた。
(嫌だ、)
 思わず口元に手を持っていきかけるけど、それよりも早くエキスカが近づいてきて、兄ちゃんの指が唇に触れた。
「あーん。これで最後だからね」
 まさかここで麻酔を足してなんて言えない。唇が震えそうになりながら口を開くと、指で頬の内側を優しく広げられた。
「……ん、んぁっ、ぁ、」
「謙斗? 頑張ろうね、もう綺麗になるよ」
 深い所を少しずつ削り取られる感触と痛みに、目の前が滲み出す。一回検知液を使ってから少し削った後、ようやく口を閉じるように言われた。
 今度こそ終わりだよな? でも、なぜか診療台は起こしてもらえない。まさか抜髄とか……? 不安になって涙が浮かんだまま兄ちゃんのほうを見ると、タービンにバーをつけていた。
 もう綺麗になるって、さっき言ってたのに……。兄ちゃんがミラーとタービンを手に俺のほうを向く。
「謙斗、4番と5番の間も虫歯になってる。小さくてすぐ終わりそうだから、このままやっちゃっていいかな?」
 そんな虫歯があるなんて知らない。これ以上治療に耐えられる気がしなかった俺はすぐには答えられなかった。
「痛くないし、時間も30秒かからないと思うよ。休憩してからにする?」
 兄ちゃんの中では今すぐやるか休憩してからやるかの二つの選択肢しかないらしい。小さいなら経過観察とか次回の帰省のときに治療するとかじゃだめなのかと思うけど、まともにセルフケアできない俺だと悪化させる可能性が高いと踏んだのかもしれない。
 情けなさがこみあげてくる。治療くらいはちゃんとできるところを見せないと、と兄ちゃんに返事もせず口を開けた。
「えらいね」
 ミラーが差し入れられ、嫌いな音が鳴り始める。また虫歯にしちゃったんだ。無性に泣きたくなって俺は目を閉じた。