番外編2 - 5/5

「じゃあ1週間後に新しい詰め物ができるから、また次回」
「はい。ありがとうございました」
「お疲れ様」
 待合室に戻る頃には朝から憂鬱だった気分が晴れていた。治療もあまり痛くなかったし、先生も優しかったし。次来るときにはまた緊張してしまいそうだけど、今日よりは気楽に来られると思う。次の予約はちょうど1週間後になった。
 そして、やってきた予約の日。
 先週と同じように朝から雨が降っていて、バスに乗るときになんとなく予感はあった。
 バスに乗り込んで吊り革を握る。ふと座席を見下ろし、「あ」と声が出た。座っていた男の人がこちらに顔を向ける。やっぱり城戸先生だ。
「おはようございます!」
「静かに」
 バスの中で大きな声を出したせいか軽く怒られてしまった。慌てて自分の口を手でふさぐ。
「そこまでしなくていいから。おはよう」
 先生は小さな声で言って、ちょうどバスが信号待ちで止まると席を立った。
「座って」
「えっでも」
「鞄、重いだろ」
「そ、それはまさかこの前のことを根に持って」
「は? ほら、もう信号が変わる」
 半ば押し切られるようにして私は座った。
「ありがとうございます」
 先生は無言で頷く。
 話しかけたらまた静かにって言われそうだ。城戸先生がじっと私の横に立っているこの状況は落ち着かないのでせめてお喋りをしたかったけど、黙っておくことにした。
 城戸先生は本町バス停で降りていった。
「じゃあ、また夕方に」
 小声でそんな言葉を残して。