番外編2 - 1/5

 雨の月曜日。朝から憂鬱だった。休み明けというだけじゃない。数日前にキャラメルを食べていたら詰め物が取れてしまったせいで、学校帰りに歯医者さんに行かないといけない。しかもその歯が少し痛い。
 とぼとぼとバスに乗り、空いたスペースを見つけて入り込み、吊り革を握った。その拍子にスクールバッグが隣の人にぶつかる。
「あっ、すみませ——」
 ちら、と見下ろしてきた男の人と目が合い、言葉が止まった。
 時々同じバスに乗っているお兄さんだ。いや、訂正。怖いお兄さんだ。
 あれは数ヶ月前の雨の日。バスの走行中に座席移動をして転けそうになった人を、この人が睨んでいるのを見てしまったのだ。もともとキリッとした顔つきの人だけど、あれはまじで怒っていた。
 まずい、私も怒られる……!?
 ところが男の人は半歩分くらい私とは反対側にずれてくれた。
「いえ、こちらこそ」
 声音も穏やかだ。
 拍子抜けしながらもスクールバッグを体の前のほうに持ってきた。
 その後も席が空かないので、その人の隣に立ったまま落ち着かない気持ちでバスに揺られ続ける。交差点で大きく揺れた時なんて、またぶつからないか冷や汗ものだった。
「次は本町、本町です。お降りの方はボタンを押してお知らせください」
 そんなアナウンスが流れ、男の人が降車ボタンを押した。
 よかった解放されると思うのと同時に、別のことを思い出してテンションが下がった。今日予約してある「本町歯科医院」はこの近くだ。
 中学生までは小児歯科に行っていたから、この歯医者さんは今日が初めて。小児歯科では優しくしてもらっていたから歯医者さんが苦手な私でもなんとか通えていたけど、一般歯科でも同じような扱いをしてもらえるとは思えない。すごく不安だ。
 バスが止まる。歯科医院はすぐ近くで、バス通りから見えていた。白と茶色の綺麗な建物だけど、どんな歯医者さんなんだろう。
 隣に立っていた男の人を降ろして、バスはまた走り出した。