番外編2 - 4/5

 大丈夫かもと思っていたけど、また診療台が倒され、器具を両手に持った城戸先生を見たら怖くなってしまった。
「怖い?」
「はい……」
「まだ削らないから、麻酔が効いているか確認しよう」
「い、痛かったら」
「左手を挙げて」
 でもきっと大丈夫だ、と言って城戸先生は私に口を開けるよう促した。小さく口を開ける。
「もう少し開けられる?」
 先生はそれだけ言って、無理に口の中を広げようとはしなかった。私が自分から大きく口を開けるのを待って、ミラーと先の尖った器具を入れた。
「触るよ」
「ん……」
「痛い?」
 詰め物が入っていた所を器具でコリコリと引っかかれているみたいだ。でも感覚はぼんやりとしていて痛みは感じなかった。
「ううん」
 大丈夫ですという意味で左手をひらひらと振ってみる。
「よかった。じゃあ削っていくよ」
 ミラーを入れたまま、城戸先生が右手を機械に持ち替える。左側からも衛生士さんが持っている機械が音を立てながら近づいてきた。
「大きく開けてて」
 口の中が器具でいっぱいになり、右上で水しぶきがあがる。チュイッと音がして機械の先が歯に触れた。
 小児歯科の先生は数をかぞえたり時々話しかけたりしてくれていたけど、城戸先生はそういうことはしないみたいだ。しばらく歯を削る音だけが響いて、でもそれほど長く続かないうちに止まった。
「痛くない?」
 機械の先を付け替えながら城戸先生が尋ねる。
「大丈夫です」
「もう少し続けるよ。さっきよりも響くかもしれないから、止めてほしいときは左手挙げて」
 治療が再開される。その後も城戸先生は何か別のことをする時は必ず説明してくれた。
 痛みもない。ただ少し顎が疲れてきたかも……なんて思った時だった。ジィッと機械の先を押し付けられた所がなんだか沁みたような気がした。
 いやいや気のせいかもしれないし、ちょっと様子見しようと思っていると、また同じような痛み。
 これ、もしかして言ったほうがいいかな……?
 こっそり城戸先生の様子を窺うと、真剣な目で私の口の中を見ていた。手を止めず、機械の先を押し付けては離し、少しずつ歯を削っていく。
 すごく集中しているみたいだからなんだか手が挙げづらい。それに気づかれなかったら嫌だし……でも、痛い。タイミングを見計らって手を挙げてみようかな……。
 そんなことを考えながら城戸先生をちらちら見ていたら、突然機械の音が止まって口の外へ出ていった。
「痛い?」
「はい。え、なんで分かったんですか」
「あれだけ見られるとな」
「す、すみません!」
「いや、手を挙げづらかったか?」
 小さく頷いた。
「先生集中してそうだったから……」
「たしかに集中はしているが、だからなおさら手を挙げてもらったほうが気づきやすいと思う」
「わかりました。次からはどんどん挙げます」
「いや、どんどんは……」
 そう先生は言いかけて、でもふっと目を細めたように見えた。
「まあいいよ。止めてほしいときは遠慮しないで」
 それから先生は麻酔を足してくれて、あとは痛みなく治療を受けることができた。