(風見Side)
「風見先生、ありがとうございました」
「いえ、ありがとうございました。お大事に」
俺が担当する今日最後の患者さんは小さな男の子だった。その子を待合室のお母さんのところまで送り届けて、今日行った処置の内容を説明し、診察室へ戻ろうとしたとき、待合室の隅で俯いている制服姿の女の子が目に入った。年はたぶん高校生くらい。
(泣いてる……?)
気になって近づくと、心配した通り女の子は鼻をすすりながらぽろぽろと涙を零していた。
「こんにちは」
声をかけると、びくっと怯えたように肩が跳ねて、しばらくして真っ赤な目がおずおずとこちらを見上げた。女の子のそばにしゃがみこみ、意識してにこやかに話しかける。
「大丈夫? どこか痛い?」
ふるふると女の子が激しく首を振る。
痛くないなら怖い、とかかな。
女の子の様子は、歯医者が苦手な恋人のふみに似ている気もする。
どうしたものかなと次の質問を考えていると、衛生士の倉木さんが次の患者さんの名前を呼びに来た。
「浜辺さん、浜辺和瑚さん」
「……行かなきゃ」
女の子がハンカチで涙を拭う。
呼ばれたの、この子なんだ。わこちゃん、か。
和瑚ちゃんはハンカチを鞄にしまうと立ち上がった。
たしか、今日の残りの患者さんって夏くんの担当だったような。夏くんなら大丈夫だと思うけど、それにしても怯えてたな。
倉木さんと診察室へ向かう和瑚ちゃんの背中を俺は不安な気持ちで見送った。