今日の姫は朝からご機嫌斜めのようだった。診療はいつも通りちゃんとしていたが何か愚痴られそうだなと思いながら迎えた昼休み。雪野は意外にもおとなしい。——おとなしく、食事もせず紙コップで白湯を飲んでいた。
「雪野、弁当は?」
「もしかして頼みそびれた?」
僕と豊間が尋ねると、ふるふると首が振られた。
「おなかすいてない」
「えっ、朝はステーキ弁当のチラシめちゃくちゃ眺めてたのに?」
豊間に暴露され、雪野が恨めしそうな目を向ける。そういえばそうだった。いつも宅配弁当を頼む店の期間限定メニューのチラシが置いてあって、雪野が食い入るように見ていた。
「見たらおなかいっぱいになったの」
「その程度の胃袋じゃないだろお前。いつも豊間と同じくらい食べるくせに」
「そんなふうに思われるのが嫌で」
豊間が心配そうに隣を見た。
「我慢してるの? 俺、雪野がいっぱい食べるの好きなんだけど……」
豊間と雪野の視線が合う。しばらく無言で見つめ合って、耐えきれなくなったように先に目を逸らしたのは雪野だった。口を真一文字に結んで、紙コップを片手でくしゃりと潰して立ち上がる。
「本当におなかすいてないだけなんだってっ」
絶対に何か隠している理由がありそうな様子で、雪野はそのままスタッフルームを出て行ってしまった。