*本条の2回目の抜髄があるとしたら
「本条、もう1回頑張れる?」
内田が上から俺の顔を覗き込む。少し視線をずらせば、その手にはさっきより太いリーマー。
どうしよう、無理だ。無理だって言いたい。少しだけでいいから休みたい。
でも、休みたいなんて言ったら迷惑だ。
少し息を整えてから頷くと、「じゃあもう少し開けてな」と内田の指が口角を引っ張った。
ふ、と声が漏れて視界が滲む。目を閉じようとした時だった。
「本条」
内田の手が口元から離れる。
「休みたいんだろ、お前」
「い……いや、」
「あ……決めつけるみたいな言い方すんのよくないけど。でも、本当に大丈夫なのか?」
大丈夫だ、そう答えようとするのに、内田の優しい声音を聞いているとみるみるうちに涙が溜まっていく。
「ん、辛いな」
ライトを横に押しやり、内田は俺を落ち着かせるようにとんとんと胸元を叩いてくれた。
「大丈夫だよ。ちょっと休もうな」
「……すまない」
「謝ることねえよ。……結構痛いか?」
「……ん」
「そっか。下顎だからやっぱ麻酔効きにくいのかな。あんまり酷いなら中に打ってもいいけど……ってごめん。それはもっと嫌か」
きっと俺の顔が青ざめていたのだろう、内田が苦笑する。
「全然、本条頑張れてるし。お前がこのままがいいならそうしような」
胸元に内田の体温が伝わってくる。そこから温かさと安心感がゆっくり広がっていくようだった。よかった。内田に治療してもらえて。一人でこの痛みと恐怖心に耐えるのはきっと難しかった。そんなことを考えているうちに、つい、内田の腕に右手が伸びた。
「どうした」
「……なんでもない。ありがとう」
内田は暫し面食らったように俺を見ていたが、なんでもないことねえだろ、と呟いて目尻を下げる。その顔が存外はっきりと、嬉しそうに見えて、俺はいつの間にか涙が引いていたことに気づいた。