*依田と芳野 大人編①
芳野と連絡を取らなくなったのはいつからだろう。
ソファの上で膝を抱え、肩から毛布を羽織ってスマホを操作する。メッセージアプリの友達一覧を下にスクロールしてもなかなか名前が出てこない。ずきずきと痛む右頬を膝に押し付けた。
別々の大学に進学してからもしばらくはメッセージや電話でやりとりをしていたし、芳野が帰省した時には会っていた。20歳の年に開かれた高校の同窓会でも会った。
その後、だろうか。芳野は歯学部、俺は医学部で勉強が忙しくなっていき、連絡の頻度は落ちた。それでも二人揃って国試に合格した時は互いに報告した。
ああ、そうだ。それが最後だった。随分と下のほうに埋もれていた「芳野夏己」の文字をタップする。最後のやりとりは今思い出した通りのものだった。
これで最後だと当時から薄々思っていたような気がする。俺が芳野に送った「おめでとう」。心から言えたらどんなに良かっただろうと思う。もともと歯医者が苦手だったことに加え、大学時代にも何度か虫歯を放置し、治療を受ける度にますます苦手になっていた。そんな俺には歯科医師になってしまった友人を祝福することが難しかった。
それなのにどうして今さらになって芳野と連絡を取ろうとしているのか自分でもわからない。ただどうしようもなく歯が痛くて――だから何だというのだろう。芳野に治してくれとでも言うつもりなのか。他の誰よりも診られたくない歯科医師なのに。でも、それなら誰に診てもらうのかと考えれば思い浮かぶのは芳野だけで。我ながら滅茶苦茶だ。