*似たもの同士 バレンタイン編
バレンタイン直前に問題発生。3番と4番の隣接面に入っていたCRが取れて沁みる。恋人の沙良からは例年通りバレンタインの日にデートに誘われているので、チョコを準備してくれているのだと思う。それを歯が沁みて十分に楽しめないなんて、沙良のためにも自分のためにも絶対に嫌だった。
となれば、するべきことは一つだけ。俺にしてはかなり早く行動を起こした。
「千秋先生、おはようございます」
診療開始前、カルテのチェックをしている千秋先生に近づいた。先生はこちらに顔を向け、笑みを浮かべる。
「おはようございます」
「……あの」
「どうしたの?」
先生は穏やかな笑顔のまま俺を見ている。初めて治療を頼んだときのことが思い出された。……この顔にすっかり騙されてしまったことも。
「お願いがあるんですが」
ああ、と千秋先生が笑みを深めた。
「治療かな?」
「……」
「ん?」
「…………っす」
「なに?」
「そうです!」
「元気がいいねぇ。わかりました。もうすぐバレンタインだもんね」
はぁ〜?
なーにが「もうすぐバレンタインだもんね」だよ!
なんでわかんだよ、わかってもわざわざ言わなくていいだろ!!
くっそ腹立つ!!!
心の中で気が済むまで地団駄を踏んでから、千秋先生を真似て笑顔を作る。
「お願いします」
「昼休みはランチの約束してるから、帰る前でいい?」
「もちろんです」
「じゃあまた声かけるね」
千秋先生は軽く手を振り、去っていった。
治療のことを考えると気は重いが、まずは一仕事終えた気分だ。しばらく自分のことは忘れて本業のほうに取りかかるとしよう。
まずはパソコンで今日の予約を確認する。
昨日ざっと確認済ではあったが、1件予約が増えていた。氏名は武石……
「沙良!?」
思わず口に出してしまった。近くに来ていた助手の子が「どうしたんですか!?」と驚いたように訊く。
「あっ、いやなんでも」
沙良だよな?
定検はまだ先なのにどうして、と予約のデータを確認すると、詰め物が取れたとのこと。
いやいやいや。なんなの俺ら。