診察台が起こされても、尚はぼんやりとした表情でそこから動かなかった。
「終わったよ。うがいどうぞ?」
結斗に促されて、やっと口をゆすぐ。麻酔がまだ効いているようで、口の端から水が垂れてしまった。
「あ……」
それを気にしている様子の尚の前に回り込み、タオルで口元と、涙も拭いてやる。
「よく頑張ったな」
頭を撫でて笑いかけた途端、呆けた様子だった尚の顔が大きく歪んだ。
「いたかった……っ」
堰を切ったように涙が溢れ出し、尚は両手で顔を覆う。結斗が申し訳なさそうな表情で尚の背中を撫でた。
「うん、痛かったね、ごめんな」
「最後まで頑張って偉かったよ」
尚が激しく首を振る。
「全然……泣いたし、あ、暴れた、し……」
「それでもちゃんとお口開けられてたよ? 気にしないでいいんだよ」
「結斗もこう言ってるし、そんなに泣くなって」
それから、結斗と二人で声をかけながら尚が泣き止むのをしばらく待った。
ひとしきり泣くと、幾分落ち着いた様子で尚が顔を上げた。
「青海先生」
「ん?」
「夜中に、すみませんでした……」
「それは別にいいよ。でも、本当はこうなる前に来てほしいな。俺はいいけど、自分が辛いでしょ」
「はい……」
「あと、今日治療したところ、麻酔が切れたら痛むと思う。お薬出すからちゃんと飲んでね」
尚が緊張した面持ちでこくん、と頷く。
結斗は俺のほうを見て、「衛も気をつけてあげてね」と付け足した。
「じゃ、帰ろうか。片付けするから、待合室で待っててくれる?」
「はい」
診察台から立ち上がったときに少しふらついた尚の体を支える。
「……ありがと」
尚が俺を見ずに小さな声で言った。
ここに入って来たときと同じように手を繋ごうとすると、さっきまで震えていた指先が俺の手を振り払う。
その様子はだいぶいつもの末っ子に近い気がして、俺はほっと息を吐いた。