好き、嫌い - 8/13

「麻酔効いてきたか確認しようかな」

 もう一度椅子が倒されて、陽太がミラーを手に取った。

「開けてね、軽く叩くよ」

 コンコン、とミラーで右下の奥歯が叩かれる。

「どうかな? 痺れてる感じする?」
「うん」
「よし、効いてるみたいだね」

 陽太はミラーを置くと、代わりに歯を削る機械を手に持った。
 いよいよだ……。お腹の上でぎゅっと手を握りしめる。

「じゃあ、削っていくね。こっちが歯を削る機械、こっちがお水とか唾を吸う機械ね。知ってると思うけど、いちおう」

 両手に持った機械のことを丁寧に説明してくれた陽太に頷く。

「はい、それじゃあ大きく開けてねー」

 陽太の言葉と同時に機械が甲高い音を立て始める。機械が口の中に入ってきて、右下で水しぶきがあがり出した。
 やだ……やっぱり怖い……。ぎゅっと目を閉じて、握りしめた手にもますます力が入る。

「ふみー? 痛くないよ、大丈夫だから力抜いて」

 機械音の向こうから陽太ののんびりとした声が聞こえてくる。
 力抜くの……どうするんだっけ……。

「ゆーっくりお鼻で呼吸しよっか。さっき深呼吸したでしょ? あんな感じだよ」

 言われた通り、意識して鼻から息を大きく吸って、吐いてみる。

「うん、じょーず。それでね、もう少し大きく開けられるかな? そうそう、そのままだよー」

 なんだか、子ども扱いされてるみたい。少し力が抜けてきて、ふとそんなことに気づく。
 うっすら目を開けてみると、陽太がこちらに気づいて、一瞬ふっと目を細めた。

「よく頑張れてるよ、ふみ」

 なんか恥ずかしいかも……。私は慌ててまた目を閉じた。