「詰め物が取れたのってどこです?」
私を診察台に座らせ、エプロンを付けながら千秋さんが尋ねる。
「左上の、一番奥です」
「わかりました。とりあえず診てみましょうか。椅子倒しますね」
そんな言葉とともに、背もたれが倒れていく。全身に力が入った。
あ、やだ……。歯医者さんに来たって感じ……。
ぱっと眩しいライトが点いて目を細めていると、マスクをした千秋さんが私の顔を覗き込んだ。
「はい、開けてください」
唇に手を添えられて、そっと口を開くと、手袋をした指とミラーが入り込んでくる。
「左上……ここですね。ちょっと風かけますよ?」
千秋さんが銀色の機械を手に取り、左上の歯に向ける。
「ひぁっ……!」
シュッと音がした瞬間、強い痛みが走って、びくっと肩が揺れた。
「うーん……香椎先生、これかなりひどいですよ?」
ミラーで左上の歯をまじまじと見ながら千秋さんが言う。その言葉に口を閉じてしまいそうになると「まだ開けててください」と唇の端を引っ張られた。
「いちおう後でレントゲン撮りますけど、たぶん神経までいっちゃってるなぁ……」
神経……?
だからすごく痛かったの? じゃあ、治療はどうするの?
言いようのない恐怖に襲われている私はよそに、「ざっと全体も診ますね」と千秋さんがミラーを動かしていった。