「お疲れ様でした、香椎先生」
千秋さんがエプロンを外してくれても、私はまだぐすぐすと鼻をすすっていた。
「よくがんばりました」
屈んで私に目線を合わせ、マスクを顎にかけた千秋さんが優しく目を細める。
私は泣き腫らした顔を隠すように彼から顔を背けた。
「やめてください……恥ずかしい……」
「香椎先生、ひなより泣き虫さんですね」
「だって……」
「だって?」
「痛かったし……千秋さん怖かった……」
ぽろっと涙がまた一粒零れた。
それを指ですくい取りながら、「すみません」と千秋さんは謝った。
「香椎先生にこれで懲りてほしくて。先生も悪いんですよ? 長い間放置したりするから」
「分かってます……」
「次からはちゃんと来てくれますよね」
気が重いけれど、しばらく通うしかなさそうだ。
でも虫歯はたくさんあるし、治療では醜態を晒すし、これからどんな顔で千秋さんに会えばいいのかよく分からなかった。
「引いてないですか」
「香椎先生に、ですか?」
「……私、恥ずかしいところたくさん見せてしまって……」
「んー……まあ、本当に保育園の先生のほうなのかな? っていうのはちょっと思いましたけど。別に引くとか、ないですよ」
思ってるじゃない。
治療中もかけられた言葉を思い返して耳まで真っ赤になる。
「それよりも僕は香椎先生が来てくれて嬉しかったです」
……それ、予約のときから冗談ぽく言われているけれどどういう意味なんだろう。
「ひながいつもお世話になってますから。僕も香椎先生のお役に立てたらなって、ずっと思ってたんです」
そうだよね。
いつもと変わらない千秋さんの笑顔を見ながら、妙な期待をした自分が恥ずかしくなった。
「次はいつにしますか? 火曜日がお休みって言ってましたよね」
「……じゃあ、火曜日で」
「よかった。また来てくれるの楽しみにしてますね」
千秋さんが嬉しそうに微笑む。
だからそういう誤解を招くような言い方がいけないのに。
いろいろと恨めしい気持ちになりながら私は千秋さんを見つめ返した。