「はい、開けてください」
恐る恐る口を開けると、指で口内を大きく広げられて固定される。さっきまでより明らかに強い力で固定されて、恐怖心が膨れあがった。
「頑張りましょうね、香椎先生」
視界の中の千秋さんがぼやける。
「お口を閉じないのと、お顔も動かさない、先生ならできますよね?」
そんなわざわざ念押しみたいに言うなんて、今から何をされるんだろう。
「や……待っ……」
待って、と言おうとしたけれど、千秋さんは私のそんな声は聞こえなかったかのように長い指で器具を取った。
目で追うと、それは先のほうにギザギザとしたものが付いた、小さな針みたいな器具。
初めて見るそれが口元に近づいてきて、私は慌てて目を瞑る。
そしてすぐに、歯の奥のほうに耐えられないほどの痛みが走った。
「あ、あぁぁぁ……っ!」
「香椎先生、あーんですよ、ほら、大きくあーん」
「やっ、あぁっ、やらぁ……!」
細い器具が何回も歯の中に出し入れされ、その度に激しい痛みと気持ちの悪い感触に襲われる。
ぶわっと涙が溢れてきて、顔を背けようとしたけれど、千秋さんの手で頭を抱え込むようにして固定されて、それはかなわない。
今度は体を捩って逃げようとすると、「先生」と千秋さんの静かな声に制止された。
「動かないでくださいって……あと一回ですから」
歯の奥から器具が引き抜かれて、その瞬間また強い痛みを感じた。
「も……やぁ……です……」
千秋さんに向かって泣きながら首を振って訴えると、新しい器具を手にした千秋さんが少し困ったように眉を下げる。口元を押さえている手の力が少しだけ緩んだ。
「本当にこれで最後です。もう痛いのなくなりますから。ね、頑張りましょう」
顎を抱えなおされて、逃げようもなくてまたぎゅっと目を閉じる。
「泣いていいから、我慢ですよ」
そんな言葉とともに、歯の奥のほうにあの器具が差し込まれる。
私はまた声をあげて、それから千秋さんの言った通りその処置は一回で終わったけれど、治療が終わるまで涙は止まらなかった。