その日はそのまま家に帰ることになった。
頭の中は颯が歯医者さんだという事実でいっぱいで、帰りの車で彼が話しかけてきても上の空。
家に帰りついてから、私は一人で泣いた。
颯があのときの歯医者さんとはきっと違うということは頭ではわかっていた。
でも、心が受け付けない。
颯の手を見ただけで恐怖を覚えてしまった私が彼と付き合うなんて絶対できないし、彼にも失礼だ。初めて二人きりで歩いた日、自分の仕事を好きと言った顔を思い出す。そういうところも好きだったけど、だからこそ。
もう終わりにしなきゃ。
それからしばらくして、颯からまたデートのお誘いがあった。
私の体調を気遣う言葉が添えてあるあたりが彼らしくて、前回のことで心配をかけてしまったのを申し訳なく感じる。
でも、これで最後にしよう。
明日のデートで、颯とはもう会わないって言おう。
『またあした』
そんなメッセージを送信してから、涙が滲んだ。
なんで颯が歯医者さんなんだろう?
膝を抱えて座りながら私はもう何度か考えた問いを繰り返した。
歯医者さんじゃなかったら、颯の彼女になって、もっと一緒にいたかったのに。