歯医者さんの彼女 - 5/8

 洗面台の前で、私は膝を抱えてしゃがみこむ。
 大好きな人が、大嫌いな仕事をしているなんて。

 大嫌いなんて言葉じゃ足りない。
 子どもの頃受けた虫歯の治療がトラウマになってしまって、歯医者さんにはもう何年も行けていない。歯医者さんの前で口を開けようとしただけで手が震えるし、泣けてきてしまう。
 
 目を閉じると、あのときの治療のことが脳裏に蘇ってきた。
 たくさんの大人に囲まれて、身動きが取れない。
 痛くて怖くて、誰かに助けてほしくて手を伸ばしたけど、手を握ってくれる人はだれもいなくて。そのかわりに機械の音と怒鳴り声が聞こえて、伸ばした手は腕から押さえつけられてしまった。

 颯も、あのときのあの人たちと同じなの?
 目頭がじんわりと熱くなった。