6 - 6/7

 浅賀の治療がなくなったので、診療が終わると西矢はいつものように練習をすることにした。
 しばらく根治の練習をしてみたが、頭の中にはずっと浅賀のことがあり、集中できない。とうとう手が止まった。
 ファイルを置き、気持ちを切り替えるように大きく伸びをする。こんな調子ではだめだ。でも、どうすれば。
 今までのことを思い返したとき、ふと、ある人物に連絡をとろうと思いついた。
「急にすみません。このあと時間ありませんか?」
 そんなメッセージを送信する。相手も診療時間が終わった頃だったのか、すぐに返信があった。
「あるよー」
「どっかで会う?」
 何回かやりとりをして、1時間後に相手の職場の最寄駅で待ち合わせることになった。
 片付けをして、駅まで歩いて、電車移動と考えると、あまり時間がない。西矢は慌ただしく片付けを始めた。

 待ち合わせ場所に着いたのは、約束の10分前だった。喧騒の中、改札を出て辺りを見回すが、相手の姿はまだ見当たらなかった。
 壁を背にして立ち、駅前の広場を眺める。西矢と同じように待ち合わせらしき人々も何人もいる。浅賀も人に会う用事ができたと言っていた。どこかで、こうして誰かを待っているんだろうか。
 そんなことを考えたせいだろうか、広場の片隅、銅像の横に立っている男性に目が留まった。遠目に見るとどことなく浅賀に似ている。彼も待っている相手がいるようで、携帯を気にしながら誰かを探すようにきょろきょろと周囲を見ていた。と、こちらに体を向けた彼の動きが止まる。
 見てるのに気づかれたか。一瞬そう思った西矢だったが、彼は誰かに向かって軽く手を挙げ、歩き出す。間もなく、サラリーマン風の男性が合流して彼に頭を下げた。

(あ、こっちにくる)

 二人は親しそうに話しながら西矢のいるほうへと近づいてくる。それにしても、やはり似ている。近づけば近づくほど、浅賀にそっくりだ。

(いや、そっくりっていうか……)

 はっきりと顔が確認できる距離まで二人が近づいてきて、西矢は思わず下を向いた。浅賀本人だ。間違いない。
 偶然とはいえこっそり見ていた後ろめたさがある。このまま顔を隠していようかと思ったが、好奇心が勝った。もう一度顔を上げ、今度は浅賀の隣にいる男性に目を向ける。年齢は西矢と同じくらいか。身長は平均的だが頭身が高く、バランスの良い体躯。凛とした顔立ち。浅賀と並んでも霞まない容姿の持ち主だ。その彼が浅賀に何事か話しかけ、浅賀がそれに笑う。とても自然な笑顔だった。
 西矢はまた下を向く。二人が通り過ぎて行っても、もう顔を上げる気にはなれなかった。