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 昨日はここで、浅賀の2回目の治療をした。

「西矢、やりにくくないか?」

 左上6番の根治に入ろうとミラーで患歯を確認していると、浅賀からそう尋ねられた。

「あれ……バイトブロック、つけたらいいじゃないか」

 意外な申し出だった。前回使ったときに浅賀が怯えた様子を見せたのは気づいていた。しかしあの痛みを伴う処置ではやむを得なかった、と思う。だからあのときより痛みが軽いであろう今回は使わない予定だったのだが。

「……いいんですか?」

 使ったほうがやりやすいことは間違いない。やりやすいほうが治療の精度もきっと上がる。

「ああ。……この前は、いろいろと我儘を言って悪かった。今日こそはお前が治療しやすいようにしてくれ」
「そんな、我儘なんて思ってません」

 むしろ、もっと我儘を言ってほしいくらいなのに。

「優しいんだな、西矢は」

 浅賀は西矢の言葉を世辞としか思っていないようだった。そんなことを言われても、ちっとも嬉しくない。
 さらには、治療が終わった後。
 
「浅賀先生、どうですか?」

 根治の後に左下6番と5番の治療を行い、浅賀に手鏡を持たせて尋ねた。
 思ったよりも進行していなかったので、もとはインレーが入っていた6番もCRで修復した。浅賀も喜んでくれるだろうと西矢は思っていたのだが、鏡を見た浅賀は少し驚いたように「上手いな」と言っただけだった。
 褒められたのに、そういうことを言われたかったわけじゃない、と思ってしまった。なにかが足りない。少し考えた西矢は、すぐにその“なにか”に思い当たった。
 浅賀に笑ってほしかった。