「……これは酷いな」
レントゲンを撮って診療室に戻り、本条に操作を教えてもらいながら撮ったばかりの画像をユニットの前面に取り付けられたモニターに映し出す。それを確認し、俺より先に口を開いたのは本条だった。
「お前な、他人事みたいに……いいか? これ、お前の口の中だぞ? わかってんのか」
一番酷いと思われる右上6番は黒い影が歯髄部分までかかっているし、その後ろ、7番も象牙質のかなり深い場所まで黒く抜けていた。さらにはそこ以外にも何ヶ所か齲蝕と思しき部分が見受けられる。
そんな現状を目の当たりにしても異様なほど冷静に見える本条に噛み付くと、彼ははっとしたように俺を見て、すぐに目を伏せた。
「わかってる。ただ、自分でも予想はしてたからあまり驚きはないんだ」
「予想はしてたって、ならなんでここまで放置したんだよ」
「……早く治療しないといけないとは思ってた。けど、なんとなく決心がつかなくて……先延ばしにするうちにいつの間にか、ここまで来てしまって」
「お前それでも歯医者かよ……」
「そう言われても仕方ないな」
自分にも他人にも無頓着なやつだとは思っていた。しかし、ここまでとは。本条にはプライドというものがないのだろうか。しかし言い訳もせずに神妙な態度を取られてしまうと、責めるようなことは言えなくなってしまう。
「相当痛かったろ?」
幾分口調を和らげて尋ねると、本条は苦笑しながら答えた。
「痛かった。今日も鎮痛剤を飲んでる。だから、今は正直……内田に治療してもらえると思うとほっとしてるところもある」
このあとの治療も恐らく痛みが伴うというのに暖気そうにそんなことを言われるとお前わかっているのかと心配になってくる。歯科医なのだからわからないはずはないのだが。
それとも治療の痛みを恐れている場合ではないほど今も痛むのだろうか。そんな状態で一人で耐えていたのか。目の前の本条の様子から定かなことはわからなかったが、とてももどかしい気持ちになってしまった。
「お前、ほんと早く言えよ」
「すまない」
「いや、俺は全然いいんだけど。まあそっか、そういうことなら早いとこやっちまうか。頑張ろうな?」
そう言って笑いかけると、本条は表情に微かに緊張を滲ませながら頷いた。